第六章 〜あのとき〜
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——コンコン
朝食の時間。
いつもは「おう」とか「なんだ」とか
短くぶっきらぼうな返事が返ってくるのに
何度ドアをノックをしても反応がない。
いないのかな?
そう思ってそっとドアを開けると
しんと静まり返った部屋の中
大きなベッドの真ん中にその姿はあった。
「失礼いたします、ヨンジ様。」
驚かせないよう、なるべく静かに声をかけるも
反応がない。
そばまで行くと、ヨンジは昨日の格好のまま
上半身を露わに薄いシーツを腹部までかけ
顔の横へ上げた両腕で枕を抱えるように
うつ伏せの体勢で寝息を立てていた。
鍛えられた背中の筋肉を前に
昨日のことを鮮明に思い出して体温が上昇した。
「ヨンジ様。朝ですよ?起きてください。」
「………」
静かに聞こえたミドリの声に反応して
ヨンジの瞳がうっすらと開く。
「ヨンジ様、おはようございます。」
「うるせ……もう少し寝かせろ。」
迷惑そうに眉間に皺を寄せ
そのまま枕に顔を埋めてしまった。
優しかった昨日とは別人のような態度に
もしかして昨夜のことは夢だったのではないかと
ミドリは自分の記憶に自信がなくなってくる。
「朝食の準備ができてますが…」
「………」
その後は何を言っても反応がなく
少ししてまた寝息を立て始めた。
仕方なく食堂へ戻る。
「すみません、ヨンジ様はまだ休まれたいようで…部屋へお持ちします。」
「はい、わかりました。」
準備してあった朝食を前に給仕係に頭を下げた。
王子たちは気まぐれで
食事を取ったり取らなかったり、
時間をずらしたり、部屋で召し上がったり…
なんてことは前からよくあったので
慣れたように用意をし直してくれた。
朝食を並べてもらったワゴンを押して
ミドリは再びヨンジの部屋を訪れる。
眠っているのはわかっていたから
なるべく音を立てずに部屋に入り
テーブルの横にワゴンを着けた。
ベッドの方を見ると、先ほどとは体勢を変え
こちらに寝顔を向けている。
ミドリの存在にも気付かないほどに
深い眠りについていた。
足音を立てずにベッドへ近づき
横の床に膝をついて、真横から顔を覗き込んだ。
その無防備な寝顔はとても貴重で
近くで見たくなってしまったからだ。
まず目に入るのは、通った鼻筋に長いまつ毛。
肌も白く、羨ましいほどに綺麗。
眉尻は下がり、口は少し開き
いつもきっちりしている緑色の髪は乱れ
枕へさらりと流れていた。
子どものように安心しきった寝顔に
ミドリもつい頬が緩む。
ベッドの淵に腕をかけ、重ねた手の甲に顎を乗せ
より近くでヨンジの寝顔を見つめる。
スプリングのしっかりとしたベッドは
ミドリがそのくらいのことをしても
ヨンジに振動が響くことはなかった。
ぐっすりと眠り続ける好きな人の寝顔は
いつまで見ていても飽きなかった。
誰かにこんな気持ちを抱くのは初めてだった。
愛おしい。心の底から。
見つめれば見つめるほど、その気持ちは大きくなる。
好きです。ヨンジ様。
寝顔に向かって、心の中で囁いた。
好きです。
心の中でも、言えば言うほど
どうしようもない想いが胸に溢れる。
大好きです。
大好き……
なぜか泣きそうになるのを堪え
シーツに顔を押し付けた。