第六章 〜あのとき〜
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お前はまだ……
サンジが好きなのか?
そう言いかけて、言えなかった。
「はい。」という返事を聞きたくなかったからだ。
格好悪いことに、おれは逃げた。
これまでにないほどの動悸だった。
ドクドクと、胸がブッ壊れてもおかしくないほど
うるさく鳴っていた。
体もまだ、熱を帯びてる。
やはり、異常を感じるのは
あの女のせいだとわかった。
でも、もうひとつわかったことがある。
どれだけ動悸がしても、体が熱くなっても
少しも不快ではない。
あいつをこの腕の中に閉じ込めることで
不思議と心地いいものに変わってくる。
ソファの背もたれに首を預け、両手で顔を覆った。
情けねェ。
格好悪ィ。
ありえねェ。
——あんた、あの子が好きなの?
レイジュに言われた言葉が
今になってやっと、腑に落ちた。
手に触れれば腕の中に閉じ込めたくなる。
唇を押し付けたくなる。
またさらに、触れたくなる。
深く、もっと強く、その全てに。
制御できなくなる。壊しそうになる。
本当はあのまま、そこのベッドに押さえつけて
おれの好きなようにしてしまいたかった。
ただ、もう泣かせたくはない。
——せいぜい苦しみなさい
「こういうことかよ……」
バカみたいに筋トレに励んで疲れてるはずだが
今夜は眠れそうにない。
ーーーーーーーーーー
寝ているマリナを起こさないよう
こそこそと部屋に入り、自分のベッドに潜り込む。
布団の中で、自分の体を抱き締めて
ギュッと目を閉じて悶えた。
指で唇に触れて、ヨンジ様の感触を思い出して
声に出さないよう頭の中で叫んだ。
意外なほどに優しいキスだった。
もっともっと…って思ってしまった。
小さい頃におとぎ話で読んだ
お姫様への王子様のキスってきっと
あんな風に素敵なものだったんだろう。
ううん、きっとそれよりも優しくて、甘かった。
髪を撫でる手も
背を抱き寄せる腕も
——ミドリ……
名前を呼んでくれた声も
全てが優しかった。
私を見つめるヨンジ様の表情が頭から離れない。
意地悪で、人でなしで
大嫌いと思っていた人なのに
今は、こんなにも……
今夜は眠れそうにない。