第六章 〜あのとき〜
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心臓がドクドクとうるさいほどで
今にも壊れそうだ。
掴まれている手首、触れられている頬から伝わる
熱に反応するように、体が熱くなってくる。
唇が離れ、ゆっくりと開いた瞳は
見下ろしてくる熱い視線と目が合ってしまい
それから逃げるように下を向くと
頬にあった手は名残惜しそうに離れた。
いけない!こんなこと!
急に冷静になり、口に手を添える。
「………また泣くのか?」
ヨンジは背をかがめ
伺うようにミドリの顔を覗き込んだ。
前に泣かせてしまったことを気にしているらしく
ヨンジらしくない気遣いに
ミドリの胸はまたギュッと締め付けられた。
「…どうしたんですか?急にこんな……」
キスなんて。と、言いかけたが
恥ずかしくなって言葉に詰まる。
察したヨンジは、自分から話し始めた。
「体が変になる理由はまだよくわからないが、そんなのはもうどうでもいい。」
ミドリの手を、ヨンジの大きな手が握る。
「おれは、とにかく触れたいんだ。お前に。」
その感触を確かめるように
指先で手のひらを撫でる。
「だが、前のように泣かしたくはない。お前が嫌ならやめてやる。」
その手を自分の胸に押し当てた。
「嫌なら、おれを突き飛ばせ。」
初めて触れた、硬く鍛えられた胸板に
自分とは違う男の人の強さを感じて
また心臓が跳ねる。
考える間もなく、再び近づいてくる顔。
そんな言い方、とてもずるい…
だって私、今のヨンジ様は怖くないし
全然、嫌じゃない。
ほら、また、目を閉じてしまう。
さっきのとは違う、とても深い口付けだった。
頭の後ろを優しく手のひらで抑えられて
上唇と下唇、交互に、じっくり吸うように
何度も何度も柔らかい感触が押し当てられた。
「ミドリ……」
息をするタイミングで名前を呼ばれて
同時に背を強く抱き寄せられて
胸が張り裂けそうになる。
ヨンジは、胸板に添えられていたミドリの手を
自分の首へと回させた。
もう片方の手も同じようにすると
ミドリはおずおずとヨンジの首の後ろで
両手を組む。
まだ少し濡れた髪の毛先が腕に触れても気にせず
背伸びをし、ヨンジにすがるように体を預けると
正面と正面で密着した。
唇はなおも触れあったまま
ついては離れそうになり、またさらに深く。
その繰り返しでお互いの吐息も混ざり合う。
頭、首筋、背中、腰のくびれ
その全てを、順番に大きな両手が優しく撫でる。
大切なものを扱うように
とても大事に、ときに乱暴に。
唇が離れては目を見つめ
また吸い寄せられるようにキスを繰り返した。
時間も忘れるほど、触れ合っていた。
——カチ
ヨンジの部屋で一番大きな壁掛け時計。
その針が0時を指す音が妙に大きく響き
それを合図に、どちらからともなく2人は離れた。
「………」
「………」
恥ずかしさからか、すぐに下を向くミドリ。
ヨンジはもう一度抱き締めたかったが
沸騰しそうなほど顔を赤くしている彼女を前に
もうやめておくべきか、と珍しく空気を読み
軽く頭に手を置くだけにした。
これ以上は、自分の方も止まらなくなりそうだ、と
そういう理由もあった。
「……もう寝ろ。」
「あ、はい……そうですね。そうします。」
どぎまぎとした態度でドアへ向かう彼女を
名残惜しい気持ちで見送る。
「おやすみなさいませ。ヨンジ様。」
「……なァ、」
閉じられようとするドアに手をかけ、引き留めた。
「お前はまだ……」
「……?」
「いや、何でもない。」
「では、失礼いたします。」
ドアが閉まると、ヨンジは
力が抜けたようにソファへ身を預けた。