第一章 〜わたしの王子様〜
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恐怖の朝を迎える。
支度を終え、重い足取りで部屋を出ると
使用人たちのトップである城の執事が
部屋の前で待っていた。
ミドリは特に驚きもせず、ただ
あぁ…最悪の一日が始まるんだ…と、そう思った。
「ミドリ。君は今日からヨンジ様の専属に決まった。」
「……え?」
専属とは、使用人の中でも
その人の一番そばで使える役割のこと。
つまり、いつもどんな時でも
ヨンジの一番近くにいなくてはいけない
言ってしまえば”ヨンジ専用の家来”。
ミドリは思いもよらなかった仕打ちに
顔面蒼白となる。
「で、でも王子たちは専属は取らないって……いつもそばにいられたら鬱陶しいとか何とか……」
「私も不思議なんだが、ヨンジ様たっての希望だ。」
「……あの、お断りするわけには……」
「………」
「いかないですよね。」
「朝食の準備を済ませたら、すぐにお迎えにあがりなさい。」
「……はい。」
最悪。
本当に最悪だ。
これまで王子たちの怒りに触れないよう
細々と使用人の仕事に従事してきたっていうのに
ここにきて大失態をおかしてしまった。
まさかヨンジ様の専属だなんて。
ヨンジ様本人からの嫌がらせはもちろん
そんな目立つ立場になってしまったら
イチジ様、ニジ様にも目を付けられることだろう。
朝食の準備が整い
ミドリは鉛のように重い足をなんとか動かして
長い廊下の先へ向かった。
使用人のそれとは違う
煌びやかで重厚感のある大きな部屋の扉。
震えそうになる手をギュッと一度胸に抱いて
落ち着けてから、扉をノックした。
——コンコン
「入れ。」
中から聞こえた声に、ゴクリと生唾を飲む。
もう、行くしかない。
「失礼します。」
扉を開けて中に入ると
ヨンジはすでに身支度を終えており
大きなソファーに深く腰掛けて
くつろいでいた様子だった。
背もたれに腕を広げて大きく寄りかかったまま
ミドリの顔を見るなり、ニヤリと口角を上げる。
「よォ、お前か。」
「お…おはようございます。ヨンジ様の専属に、と言われました。」
「私が指名してやった。ありがたく思え。」
「は、はい……」
少しもありがたくないです。
と、心の中で呟きながら頭を下げると
ヨンジは立ち上がった。
「まず朝食だな。」
「はい。ご用意できています。どうぞ。」
自室からの長い廊下をスタスタと歩くヨンジ。
そのスピードに合わせ
一歩後ろを少し早足で着いていく。
目の前にいるこの男に
これからどんな嫌がらせをされるのだろうか。
私は今後もこの仕事を続けていけるのだろうか。
どうしたらヨンジ様の専属をやめられるんだろう。
頭の中はそんなことばかりでいっぱいだった。
「ぶわっはっは!オイ、てめェヨンジ!!一体何の冗談だ!!」
この状況を見て大爆笑しながら近付いてきたのは
ヨンジの兄でヴィンスモーク家の次男・ニジ。
「専属を取ったって聞いたからどんな美女を見つけたのかと思えば、お前それ…」
「勘違いするな。おれだってこんなん趣味じゃねェよ。」
ものすごく失礼なことを言われているけど
そんなことをいちいち気にしていたら
きっとこの先続かない。
ミドリは気にしないようにして
ニジに対してペコリと頭を下げた。
「この女、サンジの野郎がお気に入りらしくてな。」
「なっ…」
いきなり爆弾を落とすヨンジに
ミドリは焦って顔を上げると
そこにはものすごい形相のニジがいた。
「あァ!?」
「あのっ、そういうわけではっ……」
「だから少し遊んでやろうと思ってるだけだ。」
「へェ。まァ暇つぶしにはなりそうだ。」
2人はニヤニヤと笑いながら食堂へ歩き出した。
「はぁ……」
ミドリは2人に気付かれないように
小さくため息を吐き、その後ろをついていく。