第五章 〜芽生えた感情〜
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体の異常も、レイジュから言われたことも
全てはミドリが原因なことは確かだ。
次の日から、ヨンジは
暇さえあればミドリを観察するようになった。
他の侍女たちと共に動き回っている姿。
あの細腕のせいか、そこまで大きくもない荷物に
四苦八苦している姿。
忙しそうにしながらも
楽しそうに相手に向ける笑顔も目に留まる。
そうしているうちに気が付いた。
見ているだけで動悸がしてくる。
触れてもいないのに
この手で触れた時のことを勝手に体が思い出す。
そして同時に熱を持ってくる。
「なんなんだ…クソ……」
夕食後、ヨンジはトレーニングへ向かった。
「こんな時間からですか?」と
驚くミドリを無視し、トレーニング室に籠る。
汗でも流せばこの熱は落ち着くかと
余計なことを考えないように筋トレに没頭した。
その成果もあってか、汗とともに
モヤモヤとした気持ちが多少スッキリとしてくる。
数時間の筋トレに熱中し
そのまま浴室の風呂でゆっくりと体を温める。
いつものように長風呂を満喫し浴室を出る頃には
間もなく日付が変わろうという時間だった。
「フゥー……」
ヨンジが濡れた髪を拭きながら自室へ向かうと
部屋の前でミドリが待っていた。
「わ、ヨンジ様、顔が真っ赤ですよ。」
ヨンジは少し驚きながら、ドアを開け中に入る。
「……待っていたのか。」
「ヨンジ様が眠るまでが私の仕事ですので。どうぞ。水分とってください。」
手に持っていたポットをテーブルへ置き
水の入ったグラスをヨンジに手渡す。
ヨンジがそれを一気に口へ含むと
ミドリはまたポットから水を注いだ。
「お風呂好きもいいですが、次はのぼせる前に出てくださいね。」
ヨンジを見てフッと笑うミドリの笑顔に
落ち着いたはずの熱が、またすぐに戻る。
”仲直り”をしてから
ミドリはよく笑顔を見せるようになった。
距離も近くなった。
手を伸ばせば、届く。
その柔らかい肌に
また、触れたくなる。
「……どうかされました?」
「……いや、なんでもない。」
無意識に見つめてしまっていた。
ミドリの声に我に返ったヨンジは
誤魔化すように顔を逸らし、2杯目の水に口をつけた。
「では、これで失礼します。おやすみなさいませ、ヨンジ様。」
頭を下げたミドリが体の向きを変え
部屋を出て行こうとする。
「待て。」
ふいに、手が伸びて
咄嗟にその手首を掴む。
汗を流したところで、何も変わりはしなかった。
結局こいつを前にすると、動悸がする。
おれは触れたいんだ。
こいつに。
「…ヨンジ様……?」
その手首に触れただけで、また体が熱くなる。
——あの子が特別だからでしょ?
”特別”の意味は、まだよくわからないが
体の異常の理由はわかった。
「……少しでいい。まだここにいてくれ。」
おれにとって、こいつが″特別″だからだ。