第四章 〜縮めては遠くなる〜
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城の外へ出ると、眩しすぎるほどの太陽が
ミドリを照らす。
夢のせいで暗くなっていた気持ちまでも
明るくしてくれたような気がした。
「綺麗に咲いてくれてありがとう。少しだけもらうね。」
可愛らしい花が一面に広がる大きな花壇から
数本の花を摘み取らせてもらう。
「顔を出さないと思ったら、何を堂々とサボっている。」
急に声をかけられてドキッとする。
その聞き慣れた声の相手はすぐにわかった。
振り返ると、ヨンジが不機嫌な表情を浮かべて
ミドリを見下ろしていた。
「おはようございます。ヨンジ様。今日は大事な日なので休暇をいただくと、昨日お伝えしたのですが…」
「聞いていない。」
「お返事もいただきました。『あァ』って、一言だけでしたけど……」
「許可したわけではない。」
そんな子どものような屁理屈…と呆れつつも
今日だけは譲れない、と態度で示すように
ヨンジに背を向けて花摘みを再開した。
そうすることで
少し戸惑った顔を見られないようにした。
ここ最近、この男への接し方に悩んでいたから。
人間らしさを見つけられて
前よりも話しやすくなれたかと思いきや
まだまだ価値観の違いに悩まされることが多い。
「申し訳ありませんが、私は今日暇をいただいているので、何かありましたら他の者にお願いします。」
「花なんて何に使うんだ。」
「……ヨンジ様には関係のないことです。」
摘んだ花を束ねて立ち上がり、急いでいる
素振りをしながら城門へ向かって歩き出す。
どう接したらいいのかわからない戸惑いから
最近はつい、こういう態度になってしまうことが
増えていた。
使用人としてあるまじき対応に
少し前なら、その場で酷い目にあっていたと思う。
が、ヨンジの方にも変化があり、以前のように
すぐに怒りだすことはなくなっていた。
「お前、最近生意気じゃないか。」
この日も、少し怒った口調にはなるが
声を荒げることはなく、ミドリの後ろを
ついて来る。
振り返って、生意気ついでに
前から気になっていたことを指摘してみた。
「……”お前”、じゃないです。」
「あ?」
「使用人にも名前はあります。」
そう、ヨンジはミドリのことを呼ぶときは
いつも「おい」や「お前」「てめェ」とだけで
名前で呼んだ試しがなかった。
ここの王族たちにそんなこと
望むだけ無駄だともわかっていたが
せめて専属の名前くらいは知っておいてほしい
という思いもあった。
「まぁヨンジさまはどうせ、私の名前なんて……」
「ミドリ。」
「……え?」
「だろう。名前くらい知っている。おれをみくびるな。」
「………」
花を落としそうだった。
いろいろと、びっくりしすぎて。
まず、ちゃんと名前を知っていたこと。
恥ずかしげもなく、嫌がるでもなく
あまりにも自然に、それを口にしたこと。
呼ばれた瞬間、心臓が跳ねたこと。
「……し、失礼します。」
頭を下げて、その場から逃げ出した。
城から街へ出て、人目も気にせず
このドキドキとうるさい心臓を、熱くなった顔を
紛らわすように、全速力で走った。
名前を呼ばれたくらいで
こんなにもドキドキするなんて。
これこそがミドリが戸惑っている
一番の原因でもあった。
ヨンジの仕草や言葉に脈が乱れ、胸が高鳴る。
こんなのまるで、私がヨンジ様のことを……