第三章 〜そのぬくもり〜
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一日と待たず、王子たちが船へと帰ってきた。
イチジの手には報酬の入った
大きなスーツケースが握られている。
「随分と楽な任務だったな。こんな小競り合い、私たちが来るほどだったか?」
「全くだ。それにこの小さな国によくこんな財力があったな。」
「父上が待ってる。さっさと戻るぞ。」
「イチジ様!ニジ様!ヨンジ様!!おかえりなさいませ!!」
「お勤め、ご苦労様でございました!!」
甲板へ上がってきた王子たちへ向かって
船番を任されていた兵士たちが頭を下げる横で
ミドリも同じように彼らを迎えた。
「おかえりなさいませ。」
スタスタと通り過ぎるイチジとニジの後に
ヨンジがミドリの目の前で立ち止まる。
「よう、泣き虫女。」
見下すような笑みで嫌味を込めて言ってきたが
ミドリはそれに腹を立てることはなく
ヨンジとの先ほどの出来事を鮮明に思い出しては
ドキドキと速くなる鼓動を抑えるのに必死だった。
「あの時は…大変失礼いたしました。ご無事で何よりです。」
「無事に決まってるだろう。こんな戦争、なんてことない。」
”なんてことない”
ヨンジのその言葉が引っかかった。
その”なんてことない”戦場で
ミドリは恐怖のあまりに泣き崩れた。
そして次々と甲板へ上がってくる兵士たちは
頭から血を流す者、多数の怪我をしている者
中にはひとりで歩くこともままならない者もいる。
この状況が”なんてことない”わけがない。
と、戻った兵士たちによって出航準備が始まり
ミドリはあることに気が付いた。
この島に上陸したときよりも
明らかに兵士の数が減っている。
「ヨ、ヨンジ様…あの……」
「あ?なんだ。」
「もう船を出すんですか?」
「こんな島、もう用はないからな。」
「兵士の数が半分ほどしか…」
「そうか。船に戻ってないのなら死んだんだろ。」
「……え…」
「何を驚いてる。戦場だ。多少の犠牲はある。」
「……多少…」
「おれは部屋で寝てくる。夕食に起こせ。」
船内へ消えていくヨンジの背中を
ミドリは少し侘しい気持ちで見送る。
あの時
——ギュッてしてください
なぜあんなことを言ってしまったのかと
後から何度も後悔した。
でもあの時は本当に辛くて
誰かの温もりを感じられたら
気持ちが落ち着くんじゃないかって必死だった。
ヨンジ様に抱き締められたとき
その体温にホッとした自分がいた。
それは、ひとりじゃない安心感だけじゃなくて
ヨンジ様も、私と同じ血の通った人間なんだって
ちゃんと感じることができたから。
もともとは彼のことが大嫌いだったけど
少しずつ距離を縮めたら
いつかわかりあえる日がくるんじゃないかって
船で彼らの帰還を待っている間
そんなふうに胸を高鳴らせていた。
その期待はこの一瞬で、見事に壊されてしまった。
そして思い知らされた。
彼らはやっぱり
自分以外の人間には価値がないと思っていること。
人が命を失っても、何も感じないこと。
やっぱり彼らと理解し合うことは
不可能なのかもしれない。
そう思ったら、なぜか涙が出そうになった。