第三章 〜そのぬくもり〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2日間の航海を経て、船は目的の島へと到着した。
そこまで大きくはない島。
その土地から近年珍しい鉱石が次々と見つかり
有り余るほどの宝石を採取できる国があったが
案の定、隣国から目をつけられ
戦争にまで発展してしまった。
ジェルマを呼んだのは、正にその国の国王だった。
領土を奪いにくる隣国を追い出してほしい。
それがジェルマへの依頼だった。
島の裏側へ船を着けてから
目的の国まで移動をすることになり
兵士たちが準備を始める。
「ヨンジ様。私は船に残らせていただきます。足手まといでしかないので。」
お前も来い、と言われそうな気がしたので
先手を打ってミドリはヨンジにそう伝えた。
「何を言ってる。それではここまで連れてきた意味がない。」
「………?」
「お前は私を見くびっている。」
「なっ、そのようなことはございません。」
「嘘を言うな……サンジ、サンジと、聞きたくもない名ばかり口にしやがって…あいつよりも私の方が全てにおいて勝っていることを思い知らせてやる。」
思い出して頭に血が登ってきたのか
感情的になり、額と額が触れそうなほどまで
ミドリへと詰め寄った。
「だから、そばで見ていろ。」
ものすごい剣幕で最後にそう言い残し
返事も聞かずに
イチジとニジの元へ行ってしまった。
ミドリは唖然としていた。
すっかり頭から抜けていたが
確かに最初にヨンジから目をつけられたのは
サンジの話題で盛り上がっていたことが
原因だったことを思い出した。
でもまさか、いまだに根に持っていたなんて。
同時になぜそこまでサンジに対して
敵対心を持っているのかも不思議だったが
やっと今回のヨンジの行動が腑に落ちた。
船番を任された兵士を数人残し
レイドスーツに身を包んだ王子3人と
何百といる兵士たちと共にミドリは船を降りた。
屈強な男たちに紛れたミドリの姿は
明らかに場違いだった。
どうして私がこんなこと……
前を歩くヨンジの背中を
恨めしげに見つめながらついていく。
船を降りた瞬間から
まだ戦場を目の当たりにしたわけではないのに
身体はずっと震えていた。
ーーーーーーーーーー
こわい こわい こわい……
ここからすぐに逃げ出したい。
建物の陰で膝を抱えて座り込み
震える手で自分の身体を抱き締める。
飛び交う銃声音と怒号から逃れるように
耳を強く塞いでも
風に乗って流れてくる火薬の匂いが鼻をついて
この状況から逃げられないこと実感した。
そばで見てろと言ったくせに、前線で戦う
ヨンジ様の近くになんていられるわけがない。
その場から動くことができないまま
ただただこの時が終わることを祈っていた。
あちこちで炎が上がり、煙に覆われる町。
激しい銃撃戦の傍ら、地面で動かなくなる人たち。
敗走する味方と、それを追う敵
どちらのものともわからない軍靴の足音。
あの時の記憶が鮮明に蘇る。
そんな中、お父さんとお母さんは……
「うっ…ううっ……」
次々と涙が溢れて膝を濡らしていった。
——もうお前が嫌がることはしない
そう言ってくれたとき、素直に嬉しかったのに
今のこの状況、これ以上の拷問はない。
やっぱり、ついてくるべきじゃなかった。
どんな目に遭わされても、嫌だと言って
船に残るべきだった。
また陰湿なイジメが始まろうが
今に比べたらきっと、なんてことない。
——ドゴッッ!!!!
「っ!?」
大きな音が響いて、地面が揺れた。
近くで大砲が撃ち込まれたようだった。
メキメキと軋む音がして、真上を見上げる。
脆くなっていた建物が
先ほどの衝撃で崩れかけていた。
ここにいたら危ない!
焦って立ちあがるも足に力が入らず
ミドリはよろけて尻餅をついてしまった。
「痛っ……」
——ガラッ
突如影になって上を見上げると、崩れ落ちてくる
大きな壁面が視界を覆う。
「!!!!」
顔を背けて目を瞑ることしかできなかった。
間違いなく潰されて死ぬ!
そう覚悟したが、ゴッ!という大きな音と
ガラガラと瓦礫が地面に落ちるような音がして
身体への衝撃は何もなかった。
「………」
恐る恐る目を開けると大きな影に覆われていた。
ミドリの足元を跨ぐように膝を着き
こちらを見下ろすヨンジだった。
左手はミドリの横の地面につき
右手は握り拳を作っている。
その右手だけで落ちてきた壁面を砕いたようだ。
サングラスを額にずらし、素顔を見せると
その目は怒りに満ち溢れていた。
「てめェ逃げることも出来ねェのか!このバカが!!」
「っ………ヨンジ様……」
ミドリは思わず
ヨンジのマントの胸元を両手で掴んだ。