第三章 〜そのぬくもり〜
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意外にもミドリはこの時
大海原を眺めながら感動していた。
海遊国家とはいっても
一国の広さがあるジェルマでは、城の中にいては
海を見ることはほとんどない。
故郷からジェルマへ来たときに船には乗ったが
当時のミドリの心はボロボロで
航海を楽しむ余裕などなかった。
海はこんなにも雄大で
太陽の光に照らされた水面がキラキラと眩しい。
静かな船の揺れもとても心地いいもので
甲板の柵に頬杖をついて身を委ね
ずっと眺めていたい気分だった。
この船の向かう先が戦場でなければ
なんて素敵な船旅だろう、とそう思った。
「おい。」
後ろからかけられた声に現実に引き戻され
ミドリは仕方なく声の方へと振り返った。
「そんなところで何を拗ねている。」
「拗ねて?いえ、海を眺めておりました。」
ヨンジはその答えに不思議そうに眉をしかめ
海に目をやりながら「それの何が楽しいんだ」と
一言呟いた。
「あの……どうして私をこの任務に?」
気になっていたことを聞いてみると
なんだそんなことか、というような顔で
意外とすんなりと教えてくれた。
「大事にしているんだ。お前の希望通りだろう。」
「……え?」
「よくわからないが、とにかくそばに置いておくことじゃないかと思った。」
「………」
——お前はおれのものだろう
——あなたのものだと言うのなら
もっと大事にしてください!
つい先日のやりとりを思い出して
ミドリは顔が熱くなった。
自分の言葉を、やり方は少し違えど
ヨンジがヨンジなりに汲み取って
応えようとしてくれている。
こんなこと、前の彼には考えられない。
彼は少しずつ変わってきているのかもしれない。
「なのに、なぜお前は私から離れている。」
「失礼いたしました。何かご用でしたか?」
「そうじゃない。警戒しているだろ。私を。」
「……前に一度、殺されかけたので…」
「お前が貧弱すぎるんだ。」
「王子たちと一緒にしないでください。」
「あ?」
「あっ」
少し怒ったようなヨンジの反応にハッとする。
ミドリはヨンジが相手だというのに
自分の立場も忘れ
思ったことをそのまま口に出してしまっていた。
「あ、あの……」
「もうお前が嫌がることはしない。」
謝ろうとする言葉を遮り
ヨンジはそう言い残して向きを変え
その場を離れていった。
ミドリはただその背中を見送る。
自分で自分にびっくりした。
ヨンジ様と話をする時は
彼の機嫌を損ねないよう細心の注意を払いながら
常に言葉を選んで接してきた。
そのせいか、そばにいるだけで
緊張からいつも身体が強張っていた。
でも、さっきは違った。
専属に戻れと言われたあの日から
私の気持ちも少しずつ、変化してきている。
——もうお前が嫌がることはしない。
最後に言われた言葉が妙に頭に残って
なぜが心臓がギュッと傷んだ。
もう一度海を眺める気分にはなれなくて
柵に背を預けて、その場に座り込んだ。