第三章 〜そのぬくもり〜
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「………」
「………」
自分に何が起こっているのかわからないまま
ミドリはじっとヨンジの瞳を見つめる。
見つめれば見つめるほど
鼓動はドクドクと速くなっていくのを感じた。
その視線に居心地の悪さを感じたヨンジは
一度顔を逸らし、ミドリの腕から手を離した。
「断ると言うなら、今度こそ命はない。」
「っ……」
また、この目。
「文句でもあるのか?」
私はこの目が大嫌い。
上から人を見下し、相手を同等の人間と
思っていないような、蔑むような目つき。
さっきは少しだけ、いつもと違うと感じたのに
結局この人は、私たちを見下しているんだ。
文句があるかですって?
そんなの、あるに決まってる。
「……あります。」
「……あ?」
「……専属に戻れと言うのなら!もう変な嫌がらせをするのはやめてください!」
ほとんど勢い任せにそう言い放った。
言った瞬間、ブチブチと血管が切れる音が
聞こえそうなほど、ヨンジの表情は怒りに溢れる。
「てめェ…誰に向かってそんな口を……」
今までにないほどに、ヨンジを取り巻く空気が
邪悪なものに変わったのを感じた。
案の定、怒らせてしまった。
今度こそ、ここから追い出される?
もしかしたら、今この場で殺されるかも。
でも止められない。
ここまで言ってしまったら、もう後には引けない。
「あ…あなたのものだと言うのなら、もっと大事にしてください!」
「大事にだと?」
ギロリと鋭く恐ろしい視線。
怖い。逃げ出したい。
でも、私は間違ってない。
視線を逸らしたら負けになる。
絶対に負けない。
この場でどうにかされてしまうかもしれない
恐怖を覚えながら、相手の出方を伺っていると
ヨンジは意外な反応を示した。
「大事に、とはなんだ?私にどうしろと言うんだ?」
「……え?」
「意味のわからないことを言いやがって。」
眉間に皺を寄せるヨンジに
ミドリは言葉を失った。
この人は…
大事にするということが理解できないのか。
何かを大事にしたことはないのか。
ヨンジ様には、大事なものがないってことなの?
「何を黙ってる。教えろ。」
「……ご自分でお考えください。」
「あ?」
「し、失礼します!」
頭を下げ、ジョウロを拾い
逃げるようにその場から離れる。
後ろから「おい!」とか「待てこの野郎!」とか
声が聞こえたけど
知らんぷりをして庭まで一気に駆け抜けた。
人間としておかしい。
人でなし。
心のない殺戮兵器のような人たち。
彼らのことは
そうやって承知していたつもりだったけど
——大事に、とはなんだ?
——意味のわからないことを言いやがって
目の当たりにして、少しショックだった。
こんなこと私に言われるのは
彼にとってこの上ない屈辱だろうけど
ヨンジ様を”かわいそう”だと、少しだけ思った。
その日の仕事が終わる頃、困った表情の執事が
ミドリのもとへやってきた。
要件は「明日からヨンジ様の専属に戻るように」
とのことだった。
結局使用人は
王族たちの言う通りにするしかない。
ミドリは自分の立場の弱さを憎みながら
眠りについた。