第三章 〜そのぬくもり〜
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第三章 〜そのぬくもり〜
「お疲れ〜。」
「マリナ。お疲れ様。」
仕事を終えたマリナが使用人部屋へ帰ってくると
ミドリは温かい紅茶と
小さな焼き菓子を2人分テーブルに置いた。
「美味しそう!」
「今日の買い出しのときに買ってきたの。マリナと食べようと思って。」
「うっそ!嬉しい!ありがとう。」
あの雪国での事件以来
ヨンジの専属を外れたミドリは
王子たちを直接世話する侍女という立場から
少し離れた仕事を任されていた。
城内の掃除や庭の手入れ、買い出しなどが主で
直接王子たちと関わることはほとんどなくなり
それはもう、今までにないほどの
平和な毎日を送っていた。
この日は、相変わらずわがままな王子たちに
振り回されているマリナを気遣い
少しでも息抜きを…と、このように用意をした。
「やっぱりミドリが一緒じゃないと寂しいよ〜。」
「そうだよね、ごめん。」
「でも本当に酷いことされたし、今はゆっくりしていてね。こっちは人手もあるし。」
「ありがとう。」
「もしかしたら、殺されてたかもしれないんだから。」
そう、あの時は本当に怖かった。
だんだんと身体中の感覚がなくなってきて
あの雪の中なのに、寒さすらも感じなくなって
意識が遠のいていくのが自分でもわかった。
このまま死んでいくんだって。
ヨンジ様に殺されるんだって、そう思った。
でも……
「まさかヨンジ様本人に助け出されるなんて。」
「私もそれはすっごく驚いた。ヨンジ様は散歩中に倒れているミドリを見つけたって言ってたけど…あの雪の中、散歩なんて行く?」
同じく不思議そうな顔でそう話しながらも
マリナは一口焼き菓子を口に入れると
「美味しいっ」と笑顔になった。
「それにスープも届けてくれた……」
「そう!スープ!私が用意したんだけど、レイジュ様がヨンジ様に届けさせるって……まさか本当に持っていくなんて。」
結局あのスープには何も入っていなかったようで
身体に異常は何もなかった。
それに関しては、後から少しだけ
疑ってしまったことに罪悪感を感じた。
それに……ずっと引っかかっていることがある。
「私…まだお礼を言えてないの。」
「お礼?」
「ヨンジ様に。助けてもらって、スープも運んでもらったのに。」
「お礼なんて!だって殺されかけたのに?」
「そうなんだけど…」
それがこの一週間、ずっと心残りだった。
あんな人大嫌いだし
できればこのまま関わりたくはない。
でも、命を救われたことは事実。
心の底から
あの男は人でなしの最低野郎だとは思うけど
してもらったことには、きちんとお礼を言いたい。
「お礼なんて必要ないし、きっとまたうっとうしがられるだけだよ。」
「うん、そうかもね……」