第二章 〜遠ざかる背中〜
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「おい。」
一通りの雪国対策を終え、静かになった城内。
ミドリが廊下の花に水をやっていると
珍しくニジが声をかけてきた。
「ニジ様。いかがなさいました?」
「ヨンジがいねェ。知らねェか。」
「お部屋には……」
「だからいねェんだって!」
時計を確認すると10時30分すぎ。
ヨンジが雪を見に散歩へ行くと出て行ってから
1時間以上が過ぎていた。
さすがに帰ってきているはずだが
確かに城内でその姿を確認していない。
窓の外を見ると、朝よりも雪の量は増えている。
この中を1時間以上も散歩するなんてこと
あるだろうか。
ましてや、あの格好のまま。
「11時に父上に呼ばれてる。それまでに連れてこい。あいつの召使いだろ!てめェは!」
睨みを効かせた表情で面と向かって指をさされ
ミドリは慌てて頭を下げた。
「承知しましたっ!すぐにお連れいたします!」
「見つけるまで帰ってくるな。わかったな。」
11時って、あと30分もない!
ミドリは厚手のコートを羽織ると
大慌てで外へ飛び出した。
のんびりと花に水をやっている場合ではなかった。
ジャッジ様から呼び出しがかかっていたなんて
把握していなかったし
やっぱりただの散歩でもついていくべきだった。
専属として失格だ。
いや、反省するのは後にして
今は一刻も早くヨンジ様を見つけ出さないと……
朝から降り始めた雪は
長靴の底が埋まるほどに積もってきていた。
庭から城の外へ出ると、目の前には
一面真っ白な山々が飛び込んでくる。
その美しさに
ミドリは一度立ち止まって息を飲んだ。
城を中心に何十隻もの船が集結したジェルマは
その島と繋がるように国の形を成していた。
この島が何という名前の島なのかも
どのような目的でここに来ているのかも
ただの使用人のひとりであるミドリには
何も知らされていなかった。
もしもヨンジがジェルマを出て
雪国へと入っていようものなら
どう考えても見つけようがない。
しかしこのまま手がかりもなく
城に戻るわけにもいかない。
ミドリは仕方なく歩みを進めた。
「ヨンジ様!!ヨンジ様!!いらっしゃいましたらお返事ください!!」
大きな声を出しているつもりが
誰に聞こえるわけでもなく空気に消えていく。
ミドリが歩みを進めていくと
さらに雪も深く多くなり、少し吹雪き始めてきた。
「はぁ……はぁ……」
次第に上がってくる息。
朝から重かった頭が、今は割れそうなほどに
痛い。
身体中の節々の痛みからも
確実に熱が上がっていることがわかる。
ヨンジの名を呼ぶこともしんどくなり
その場に立ち止まってしまったミドリに
ある疑問が浮かぶ。
本当に行方不明なのだろうか?
本当だったとしたら、きっと私なんかじゃなく
ちゃんとした捜索部隊を出すはず。
どうしてニジ様は私なんかに……
「………騙された…?」
それに気付いた途端
全身の力が抜け、その場に座り込んでしまった。
雪にはしゃいで散歩に出るなんて
可愛いところもあるんだな…と
ヨンジ様の意外な一面を見られた気がした。
全て演技だったんだ。
散歩に行くフリをして
ニジ様と示し合わせたに違いない。
ということは、本人は今頃暖かいお城の中。
「……っ…」
悔しくて、目の前が滲んでくる。
昨日に続き、こんな嫌がらせをしてくるヨンジ様。
警戒していたはずなのに
こうも簡単に騙されてしまった自分。
どんどん強くなってくる吹雪。
立ち上がりたくても動かない手足。
全てに腹が立って、涙が溢れて
凍ったように冷たくなった頬を流れた。
城へ戻らなければいけないとわかっていても
手足の感覚がなくなってくるにつれ
思考も停止してきて、頭が考えることを拒否する。
こうなるともう
浮かんでくる未来は絶望しかない。
このままここで死んでしまった方が
楽になれるだろうか。
お父さんとお母さんのもとへ
いってしまった方が……