第二章 〜遠ざかる背中〜
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第二章 〜遠ざかる背中〜
——ジリリリリリリ……
早朝。
眠るミドリの横で
いつものように目覚まし時計が鳴る。
それを止めて起き上がると
いつもと違ったのは、ズキっと痛む頭。
ベッドから出れば寒気を感じる。
完全に風邪の症状だった。
「大丈夫?辛いなら休んでいたら?」
熱を測るミドリに
ひと足先に支度を終えていたマリナが
心配そうな顔で風邪薬を手渡した。
「ごめん、ありがとう。」
体温計を確認すると微熱程度。
「でも大丈夫。熱はないし、皆に迷惑かけちゃうから。」
それに……
——私は逃げませんから
あんな啖呵切って早々に仕事を休んだりしたら
さらに馬鹿にされるのは目に見えてる。
そう思ったミドリは、無理をしてでも
いつも通りの仕事をするつもりだった。
「無理はしないで?何かあったらすぐに言ってね!」
「うん、ありがとう。」
どんな嫌がらせでも立ち向かっていってやる。
ヨンジ様が「この女に何をしてももう無駄だ」と
諦めるまで戦っていく。
そう意気込んでいた。
ーーーーーーーーーー
ミドリの決意も虚しく、朝食の時間は
拍子抜けするほど平和に過ぎていった。
もうすでに私をいじめることに
飽きてくれたのかもしれない。
このまま何事もなかったかのように
今までの生活が戻ってきてくれたらいいのだけど…
そう願いながら
廊下を行くヨンジの後ろについて歩いていると
他の使用人たちが何やらバタバタと忙しそうに
動き回っている。
「なんなんだ。騒がしい。」
同じようにそれに気付いたヨンジが
怪訝そうに顔をしかめた。
「失礼いたしました。予定より早く次の国へ到着しましたので、準備に追われておりまして……」
ひとりの使用人が立ち止まり、頭を下げる。
「準備?」
「辺り一面真っ白な雪国ですので、暖房器具や毛布、皆様の冬服のご用意を。」
「ほう。」
興味を示したヨンジが窓の外に目をやったので
ミドリも同じようにそちらを見ると
確かに白く小さな粒が
ふわふわと少しずつ降り始めていた。
今朝から感じている寒気は
このせいでもあったのかと、妙に納得した。
「久しぶりの雪だ……よし。」
思い立ったように急に早足になるヨンジ。
自室へ向かうのかと思いきや、別方向へと
歩みを進めたのでミドリは焦って声をかけた。
「ヨンジ様、どちらへ?」
「いちいちうるさい。ただの散歩だ。」
向かったのは間違いなく
正面玄関のホールへと続く廊下。
雪を見に外へ出るつもりのようだ。
しかしヨンジの格好はいつも通りで
上半身は半袖のシャツのみ。
「外へ出られるのならコートをお持ちいたします。」
「うるさいと言ってるだろ。それ以上ついてくるな、鬱陶しい女め。」
気遣いをうるさいと断られた上
鬱陶しいとまで言われてしまったので
ミドリは足を止め
早足で廊下の奥へと消えていくヨンジの背中を
仕方なく見送った。
ブルッと悪寒がする。
そのうち引いてくるかと思った微熱も
反対に上がってきているように思える。
それでもミドリは気を紛らわすように
他の使用人たちの手伝いへと向かった。