愛に生きて 後編/カタクリ
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それから屋敷の執事の人が
食事の度に部屋に料理を運んできてくれて
度々怪我を診にお医者さんも来てくれた。
彼らの話によると
トットランドは今ホールケーキアイランド以外に
34の島があり、それぞれ兄弟たちが
大臣を務めて、町を治めているらしい。
カタクリお兄ちゃんも
そのうちのひとりということだった。
「あなたを連れてきたとき、ひどく焦ってる様子で。あんなカタクリ様は初めてでした。きっとあなたが大切なんですね。」
執事の人がそう言いながら目を細めて笑っていた。
2日もすれば頭の痛みも落ち着き
体調もすっかり回復した。
あれからカタクリお兄ちゃんが
部屋にやってくることは一度もなかった。
子電伝虫は持っていないし
海軍に連絡の取りようもない。
それに、たったひとりの海兵の救出に
ビッグ・マムのナワバリにまで
軍がやってくるわけがない。
逃げるなら、自力でここを出るしかない。
部屋には鍵がかけられることもなく
いつでも自由に出入りできる状態だった。
意を決して部屋を出たけど
ホールケーキ城ほどではなくても、広いお屋敷。
長く続く廊下。
どこへ行けば外に出られるのか分からず
あてもなく彷徨っていた。
「どこへ行く。」
突然後ろから響いた低い声に心臓が跳ねる。
振り返れば案の定……
「カタクリお兄ちゃん……」
ついそう呼んでしまうと
お兄ちゃんの目元がピクっと反応した。
私はハッとして両手で口を抑える。
「……おれはお前の兄じゃない。」
ドスドスとあの大きな足音で近付いてきて
目の前で立ち止まり、私を見下ろす。
「全て聞いたんだろう。」
咄嗟に私は逃げ出そうと走り出す。
が、すぐに手首を掴まれて
静止させられてしまった。
「本当の兄妹じゃない。おれたちは……過ちなど犯していなかったんだ。」
「!!だっ…だったら何だって言うの?もう私とあなたは関係ないっ!」
つい声を荒げてしまう。
すごく動揺していた。
手を振り払うと、それほど強く握られていなかった手首は、簡単に解放された。
「……ミドリ。」
「呼ばないで!!」
喉が裂けそうなほど、大きな声が出た。
お兄ちゃんは一瞬怯んで
眉間に皺を寄せて、少し寂しそうな表情をした。
その声で名前を呼ばれることが、すごく怖い。
あの頃に戻ったような感覚になるから。
この人に全身で恋をしていた頃のように。
「ひとりにして……」
結局ここを出るすべがわからなくて
もとの部屋に戻り、閉じこもった。
鏡を見ると、今にも泣き出しそうなひどい顔。
ベッドに倒れ込んで、そのひどい顔を埋める。
触れられた手首を握る。
昔と変わらない、大きくて熱い手だった。
涙が溢れてきた。
やっぱり今回の任務に出るべきじゃなかった。
過去はもう関係ない、と
割り切ったつもりでいたけど
二度と会うべきじゃなかった。
あの人のことは忘れたはず。
今はただの敵同士。
なのにどうして、こんなにも胸が苦しいの。