愛に生きて 後編/カタクリ
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あんなにいい天気だったのに
戦いが始まると同時に風が吹き始め
黒雲が現れて、パラパラと雨が降り始める。
私は何人かの兵士と
クラッカー兄さんのビスケット兵に苦戦していた。
「…くっ……」
強い。
弱音を吐くなと言われるだけだから
決して口にはしないけど
こんなの、倒せる気がしない。
剣を振りながら悔しさと焦りが込み上げる。
そして、動揺を消すことができない。
目の前の戦いに集中しなければいけないのに時々カタクリお兄ちゃんが視界の向こうに映るから
その度に心臓がドクンと跳ねる。
カタクリお兄ちゃんだけじゃない。
他の皆も、10年前まで
家族、兄姉と信じて一緒に育ってきた人たち。
固い絆で結ばれた彼らの中に、私はもういない。
こんな惨めな思いをするくらいなら
やっぱり二度と会いたくはなかった。
——キンッ!!
「キャッ!!」
「ミドリ!!」
ビスケット兵の剣を受け止めた瞬間
雨で濡れた床で足が滑り、踏ん張りきれずに
そのまま後ろに弾かれて、勢いよく壁に激突した。
「ミドリ!しっかりしろ!!」
「大…丈夫…私は気にしないで……」
壁に寄りかかる形で座り込んで動けない。
後頭部を強く打ったようで
頭がガンガンと痛み、景色が歪む。
気が付けば大雨になっていて
風のせいで船も大きく揺れている。
嵐が来る。このあたりで撤退だろうか…
どちらにしろ、動けそうにない…
このまま意識を手放してしまおうかと思ったとき
ドスドスと大きな足音が近付いてきて
私の目の前で止まった。
「………ミドリ?」
その声に体が反応し、痛みも忘れて顔を上げる。
座り込む私の目の前で、カタクリお兄ちゃんが
片膝をついて顔を覗き込んできた。
「…ミドリだろう……」
しっかりと、目と目が合う。
お兄ちゃんも動揺しているようで
瞳が大きく揺れていた。
「……何のこと?」
右頬を隠す長い前髪の乱れを直しながら
思わず顔を逸らす。
と、大きな手がこちらに伸びてくる。
頭はうまく働かないし、逃げることもできない。
お兄ちゃんは私の髪をサラリと右耳にかけた。
頬の傷が露わになる。
「……隠しても、とぼけても無駄だ。」
「………」
「おれを忘れたか?」
なんだか少し傷付いてるような、寂しそうな声色。
そんな言い方、ずるい。
「忘れるも何も、あなたなんて知らない…っ……」
ズキンと後頭部が痛み、思わず頭を抱える。
「怪我してるのか。」
カタクリお兄ちゃんがふいに私の頭に
手を伸ばしてきて、私はそれを思いっきり叩いた。
「あなたには関係ない!」
勢い任せに立ち上がると視界がグラグラと揺れて
思わずその場に倒れそうになる。
と、伸びてきた大きな手に体を支えられた。
「無理するな。」
「は…離して……」
口では強がりを続けるけど
情けないことに体が言うことをきかない。
私を支えるカタクリお兄ちゃんと
目を合わせないようにするだけで精一杯だった。
——と、
「カタクリ!!キリがないし、予想より嵐がでかい!離れるぞ!!」
遠くからこちらに向かってペロス兄の声が響いた。
ほぼ同時に海軍にも撤退命令が出される。
軍艦に、帰らなきゃ。
「…離して……」
私は壁を支えに手をついて
カタクリお兄ちゃんの腕から逃れる。
「……離さない。」
ふわり、と体が浮いた。