愛に生きて 前編/カタクリ
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「……聞いていたのか。」
「……ごめんなさい…」
素直に謝るとお兄ちゃんは罰が悪そうに
視線を逸らした。
「部屋に戻れ。」
そう言うとお兄ちゃんも廊下を早足で歩き出す。
「ねぇ、待って。」
私も小走りでその後ろをついていった。
「どうして…ママにあんなこと言ったの?」
「………」
「どうして、反対なんか……」
「………」
お兄ちゃんは何も答えず、スタスタと歩みを進め
自分の部屋の前に着くとドアノブに手をかけた。
ちゃんと答えてほしくて、話がしたくて
私は思わずその大きな手を制した。
「どうして、私は結婚しちゃダメなの?」
ピタリと、お兄ちゃんの動きが止まる。
「私…嬉しかったの。カタクリお兄ちゃんがママに反対してくれて……膝に乗せてくれなくなってから、私はお兄ちゃんに嫌われてるって思ってたから……」
「なっ…嫌いなわけがないだろう。」
見上げると、私を見下ろしている
お兄ちゃんとパチっと目が合う。
「どうして……私は結婚しちゃダメなの?」
真っ直ぐに目を見つめて
もう一度、聞いてみた。
反対にお兄ちゃんは節目がちに目を逸らした。
「……深い意味はない。18じゃまだ早いと思っただけだ。」
「……そっか…」
やっぱり…私の考えすぎだった……
お兄ちゃんも、私と離れたくないと
思ってくれているのかも、なんて…虫が良すぎた。
期待通りの答えではなかった。
でも、なんだか今なら素直になれる気がして
両腕を大きく広げた。
「ねぇ、首にギュッてしたい。昔みたいに。」
一度驚いた表情をしてから、お兄ちゃんは頷いた。
「……あァ、わかった。」
それは数年前までは毎日のようにしていたこと。
体を低く屈めてくれて、私が首に抱き着くと
その大きな腕で軽々と抱き上げてくれる。
お兄ちゃんの温もりを確認するよう
首元のファーにギュッと顔を埋めた。
「ありがとう。これで最後にするから。」
久しぶりの行為に緊張して、手が震えた。
妹という立場を利用して
好きな人の温もりを手に入れるなんて
なんて悪い女なんだろう。
これから、違う誰かの妻になるというのに。
この温もりは
忘れなくてはいけないものなのに。
そう思ったら、また涙が溢れた。
「……ごめん……もうしない。」
鼻をすすって
名残惜しく思いながらも腕を緩める。
離れようとしたけど
反対に背中を強く抱き寄せられた。
「……お兄ちゃん?」
今度はカタクリお兄ちゃんが
私の首もとに顔を埋める。
「……何も言うな。」
思い詰めたような声でそう言ったから
私はお兄ちゃんの頭をそっと抱き締めた。