愛に生きて 前編/カタクリ
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「結婚!?私が?」
珍しくママから呼び出され、部屋に行ってみれば
思いもよらない話を持ちかけられた。
「最近この近くで勢力を伸ばしてきてる海賊団でね。うちの傘下に入りたいと言ってきた。そこの副船長とだよ。」
「まだ私、結婚だなんて……」
「お前ももう18になったし、家族の役に立ちたいって言ってただろ。いい機会だ。」
「でも……」
「もう決めたことだよ。諦めな。」
ママが一度決定したことを覆すことは
不可能だとわかっていた。
目の前が真っ暗になって、その場に立ち尽くす。
カタクリお兄ちゃんの顔が頭に浮かんだ。
私はあれからずっと
お兄ちゃんへの恋心を隠して生きてきた。
それは終わりの見えない迷路のような道を
ひとりぼっちでずっと歩いているようなもの。
お兄ちゃんと結ばれることは、決して叶わない。
だったら、他の誰と一緒になろうが
私にとっては、もうどうでもいいことだった。
「……わかりました。」
きっと、これでよかった。
カタクリお兄ちゃんのことを諦める
いい機会かもしれない。
「物分かりがいいね。下がっていいよ。」
ママの部屋を後にすると、廊下の向こうから
カタクリお兄ちゃんが歩いてきた。
私は思わず足を止める。
「珍しいな、ミドリもママに用か。」
「あ、うん。大したことじゃないんだけど。」
特に気にする様子もなく
お兄ちゃんはママの部屋へと入る。
開いたままのドアの向こうから
2人の話し声が聞こえた。
何かの報告だったようで
私には理解し難い内容の話をしていた。
自分の部屋へ戻ろうとしたとき
「———ミドリが……——」
一瞬
ママの部屋から私の名前が聞こえた気がして
何の話をしているのか気になり
後ろめたさを感じながらも
そっとドアの方に近付いて聞き耳を立てる。
「何人か娘の写真を見せたんたが、向こうの副船長がミドリを気に入ってね。顔の傷も気にしないって言うし、いい機会だろ。」
どうやら私の結婚話をしているようだ。
いやだ。
カタクリお兄ちゃんにだけは
まだ知られたくなかった。
私はそのまま、動けなくなってしまった。
「でもミドリはまだ18だ。」
「おれがペロスペローを産んだのも18だよ。」
「ミドリはママとは違う。」
カタクリお兄ちゃんの言葉に、胸がザワつく。
「違うったってね…こんなことくらいしか、あの子が家族の役に立てることはないんだよ。」
「そんなことはない。」
「お前がおれにここまで意見するなんて珍しいね、カタクリ。」
ママの言う通り、お兄ちゃんがこんなふうに
ママに楯突くところなんて見たことがない。
「どうにかならないか、ママ。」
ポロリと涙がこぼれる。
「何を言ってる。」
他のお姉ちゃん達の結婚は
何も言わずに見送ってきたのに。
「ミドリは…ダメだ。」
どうして……
「その結婚は、おれは反対だ。」
どうして、そんな言葉を言ってくれるの?
「何を理由にそう言ってるのか知らないけどね、決まったことだ。口出しするんじゃない。もう行きな。」
諦めたのか
カタクリお兄ちゃんの足音が近づいてくるけど
私はそこから動けずにいた。
早く行かなきゃ、泣いてるところを見られちゃう。
無理に足を動かそうとしても、もう遅くて
「ミドリ……」
すぐ横で、お兄ちゃんが
少し驚いた顔で立っていた。