愛に生きて 前編/カタクリ
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右頬はスッパリと切れていた。
幸い、船はトットランドのそばまで
帰ってきていたので、海軍を返り討ちにした後
すぐに島へと着いた。
城内の医務室で、傷を何針も縫う手術を行い
私の右頬には大きなガーゼが貼られた。
「ミドリ。」
部屋へ戻る途中、ふいに後ろから
呼び止められて、その声に体が固まる。
心を落ち着かせて、振り返ると
カタクリお兄ちゃんがそこに立っていた。
私の右頬を見て、悔しそうに顔を歪ませる。
「悪かった。おれのせいだ。」
お兄ちゃんは床に膝をついて頭を下げた。
「やめて!ちゃんと中に隠れなかった私が悪かったの。カタクリお兄ちゃんは何も悪くない!足を引っ張って、ごめんなさい。」
私も同じように、目一杯頭を下げた。
「おれが守るって言ったのにな。」
言いながら、お兄ちゃんは左手を伸ばして
その大きな手で私の右頬に優しく触れた。
「痛かったな。」
触れられた温もりと、優しい声色に
涙が出そうだ。
私も左手を伸ばして
同じようにお兄ちゃんの右頬に触れる。
そこにはすっかり
トレードマークとなった耳まである縫い跡。
「おそろいだね。」
これ以上心配させないよう
お兄ちゃんが自分を責めないよう、笑顔を見せた。
「一生残る傷だって言われたけど、なんだか嬉しいの。」
お兄ちゃんは驚いたように一度目を開いて
すぐにふわりと細めた。
「傷があったって、お前は綺麗だ。」
らしくない言葉に、心臓がドクンと跳ねた。
お互いの頬に触れ合って見つめ合ったまま
身体が動かない。
いつもなら恥ずかしさから
真っ直ぐに目を見られないのに
なんだか今は視線を逸らすのが惜しい。
お兄ちゃんの瞳にも熱が込められている気がした。
好き。
あなたが好き。
言いたい。でも、言えない。
急に罪悪感が込み上げてきて
仕方なく手を離し、視線を下げた。
「ゆっくり休め。」
お兄ちゃんはスッと立ち上がり
最後に私の頭を撫でて去っていった。
これが普通の男女なら
気持ちを伝えて、恋人になったりして
一緒のときを過ごし、ずっとそばにいるんだろう。
私はダメ。
カタクリお兄ちゃんとは、そうはなれない。
いくらお兄ちゃんが欲しくても
伝えることは許されない。
私たちは兄妹だから。
恋をしてしまった相手が
たまたま自分の兄だっただけなのに
どうしてこんなにも
後ろめたい思いをしなくちゃいけないんだろう。
秘めた想いを
どうしようもできないまま歳月は過ぎ
大好きな人のそばで
私は18歳になった。