愛に生きて 前編/カタクリ
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天候にも恵まれ、爽やかな海風にさらされながら
甲板から水平線を眺めていた。
とても気持ちがいい。
連れてきてもらえてよかった。
「ミドリ。」
ふいに名前を呼ばれてドキッとする。
カタクリお兄ちゃんが隣にやってきて
甲板の柵へ腰掛けた。
「ブリュレの言っていた、お前が元気がないというのは…原因はおれか。」
「え?えっと……」
図星を突かれて、でも正直には答えられなくて
返答に困っていると、お兄ちゃんはそのまま続ける。
「悪かった。お前が悲しむとは思わなかった。」
「私こそ…きっとずっと困らせてたんだよね。気付かなくてごめんなさい。」
「いや、困っていたわけじゃない。」
ポンと頭に手を乗せられる。
そうされるのは久しぶりだったせいか
嬉しくもあり、少し緊張して体が強張った。
「おれも少し、お前との距離感がわからなくなるときがある。」
「距離感……?」
「……気にするな。ただこれからも、おれはお前を可愛い妹と思ってる。それだけは忘れるな。何も落ち込むことはない。」
「……妹…」
胸の奥がズキン、と痛んだ。
ーーーーーーー
いとも簡単に、今回の航海の目的は達成した。
ママに逆らう傘下の海賊を壊滅させ
カタクリお兄ちゃんが指揮を取る船は
トットランドへの帰路へ着いている。
——と、突然の出来事だった。
意気揚々と海を走る船が
突然強い衝撃と共に大きく揺れる。
「敵襲ー!敵襲ー!!」
「カタクリ!海軍だ!!撃ってきた!!」
「問題ない。迎え撃て。」
兄弟たちがバタバタと
慌ただしく戦闘準備に入る中
私は邪魔にならないよう、甲板の柱の影に隠れる。
私たちの船に軍艦が横付けしてくると
次々と兵士がなだれ込んできて
あっという間に船の上は戦場となった。
「ビッグ・マムは不在か。」
「残念だったな。ママはお前らの相手などしない。」
将校だろうか。
カタクリお兄ちゃんが相手にしているのは
海軍の指揮を取っていた
屈強で、いかにも手強そうな人。
刀を使う相手に対して
お兄ちゃんも剣の形に固めたモチで応戦している。
戦況は圧倒的にこちらが優位。
このままカタクリお兄ちゃんがこの将校を倒せば
海軍は諦めて引き返すだろう。
そんな時だった。
——キンッ
「キャッ!!」
「ミドリ!!」
あまりにも一瞬で
私なんかが避けられるわけがなかった。
カタクリお兄ちゃんが弾いた敵の刀が
私の顔に向かって飛んできて
気付くと右頬に痛みが走り
床には頬を伝った赤い血がポタポタと垂れ
小さな水溜りを作っている。
ズキズキと鋭い痛みに耐えられなくて
頬を抑えてうずくまる。
右の掌はすぐに真っ赤に染まった。
「ミドリ!部屋の中に!!」
「医療班!!早く!!」
周りでは兄姉達が焦っている様子が伺えた。
ブリュレに体を支えてもらい、船室へ入りながら
あぁ、結局私は皆の足を引っ張ってる、って
頬の痛みよりも、その悔しさで
涙がポロポロと溢れた。
カタクリお兄ちゃんの顔は見られなかった。