愛に生きて 前編/カタクリ
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しばらく落ち込んでいた。
本当は自分でも、きっとわかってた。
あの膝の上はいつか
私の特等席ではなくなることを。
妹という立場を利用して
カタクリお兄ちゃんに触れていたけど
いくら兄妹でも
いつまでも幼子のようには扱ってくれない。
それでも、あまりにも唐突で
心の整理がつかないままだ。
「最近ずっと浮かない顔してるわね。」
「ブリュレ。」
城内の談話室でボーっとしていたら
同い年のブリュレが隣に座った。
「あんたも一緒に海へ出る?気持ちいいわよ。」
「海へ?」
「明日、カタクリお兄ちゃんが指揮を取る船に乗せてもらうの。なんでも、ママに逆らってる傘下の海賊のところへ、お仕置きしに行くんだって。ミドリも一緒にどう?」
そういえば、戦闘員でもない私は
この島にこもりきりで、久しく海へは出ていない。
カタクリお兄ちゃんの船…乗ってみたい。
……でも
「……戦闘になっても私は戦えないし、ブリュレみたいに能力者でもないから役にも立たない。足手まといじゃないかなぁ…」
「大丈夫よ。大した相手じゃないらしいし、何よりカタクリお兄ちゃんが一緒なのよ?何も危険なんてないわ。」
「……そうかなぁ…」
「ね、いいでしょ?出航は明日の早朝よ。」
「……うーん…わかった。行きたい!」
「決まり!」
広い海を目の前にしたら
今の悩みなんて飛んでいくかもしれない。
私はブリュレの誘い通り
思い切って船に乗せてもらうことにした。
ーーーーーーー
「なぜミドリがここにいる。」
出航準備が進む船の上にブリュレと乗り込むと
カタクリお兄ちゃんに鋭い目線を送られた。
「あたしが連れてきたのよ。ミドリ最近元気がないから、気分転換になるかと思って。」
「………」
「ごめんなさい。絶対に邪魔はしないから……」
素直に頭を下げてお願いすると
お兄ちゃんは首に巻くファーの中で
ひとつため息を吐いた。
「……なるべく、おれのそばを離れるな。」
そう言い残して私たちに背を向け
船を出すため、船首へ向かう。
深い意味はないであろう最後の一言に
体が熱くなり、ドクドクと心臓がうるさくなった。
そばに寄るなと言ったり、離れるなと言ったり
ずるい人。
自分の一挙一動が
こんなにも私の心を掻き乱してるなんて
思いもよらないだろう。
「ほら、大丈夫って言ったでしょ?カタクリお兄ちゃんはミドリには激甘だから。」
船首に立って指示を出すお兄ちゃんを見上げると
ブリュレの言葉も耳に入らないほど
その姿に釘付けになった。
私はやっぱりお兄ちゃんが好き。
兄妹でも
拒絶をされても
どうしたって抑えることができない。
これが、許されない想いでも。