愛に生きて 前編/カタクリ
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私にとってカタクリお兄ちゃんは特別だった。
5歳年上で、何もかも完璧で
無表情に淡々と、どんなこともこなしてしまう。
その傍ら、強さの奥にある大きな優しさで
私を包み込み、癒やしてくれる。
他の家族とは違う。
カタクリお兄ちゃんが大好き。
極度のブラコンとからかわれることもある。
そう言われてしまっても仕方ない。
それでもカタクリお兄ちゃんが
優しく受け止めてくれるから
私はいつも素直に甘えさせてもらうんだ。
本音をいうと
大好き、なんて一言では表しきれない。
いつの頃からだったろう。
そばにいると顔が熱くなって、鼓動が速くなる。
他の兄達には決して感じない感覚を
カタクリお兄ちゃんには感じる。
絶対に誰にも言えない。
お兄ちゃん本人にも気付かれるわけにはいかない。
私が抱いている感情は
兄妹としてふさわしくないそれだから。
いけないこととわかっていても
いつも、こっそりお兄ちゃんのことを想っている。
「……あ!」
今日も平和なホールケーキ城内で
腕を組み、床にあぐらをかいて座っている
お兄ちゃんを見つけた。
寝てるのかな?と、そっと顔を覗き込むと
閉じていた瞼が開き、目が合った。
「どうした。」
「ごめん、起こしちゃった?」
「気にするな。」
時計を見ると午後の3時半を指していた。
「もうメリエンダ終わったんだね。」
「あァ。」
お兄ちゃんと同じ方を向いて、その膝の上に座る。
「あったかい……」
顔を上げて、大きな体に寄りかかり
目を閉じる。
ここは、小さい頃から私の特等席だった。
カタクリお兄ちゃんの膝の上で
昼寝をするのが大好きだった。
それは今も変わらず
隙があればこの場所を狙っている。
大きなお兄ちゃんの体の中にすっぽりと収まると
その温もりが、これ以上ないほどに落ち着く。
これは、他の姉妹たちと比べて体が小さい
私だけの特権だと優越感に浸れる時間でもあった。
2人でこうしている時間が何よりも幸せ。
安心して私が目を閉じると
カタクリお兄ちゃんも寝息を立て始める
というのがいつもの日常なのに
この日のお兄ちゃんはいつもと違った。
「……ミドリ。」
「ん?」
今にも眠りに落ちそうだったのに
名前を呼ばれ、うっすらと瞼を開く。
「もう、おれの膝に乗るのはやめろ。」
まさかの発言に眠気は覚めてしまい
振り返ってお兄ちゃんの顔を見た。
「え?どうして…もしかして私、重い?」
「そうじゃない。お前ももう15だろう。」
「……それが何?」
「兄に抱っこされるような歳じゃないと言ってるんだ。」
「歳なんて関係ない。私はいつまでもお兄ちゃんとこうしていたい。」
わがままを言って困らせたくなかったけど
そこは譲れない、と頬を膨らませて詰め寄った。
と、お兄ちゃんは私の脇に手を入れると
軽々と持ち上げ、膝の上から私を降ろす。
「……おれがダメなんだ。」
どういう意味だろう?
と思ったけど、降ろされてしまったショックで
私はもう何も言えなくなってしまった。
「あまりそばに寄るな。」
初めてカタクリお兄ちゃんに拒絶をされた。