第一章 〜めぐり会い〜
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それから、ちょうど一週間後。
「ミドリ、この後ラキとご飯行くんだけど、ミドリも一緒にどう?」
カフェの厨房でカボチャのスープを作っていると
ニコニコとコニスが近付いてきた。
「うん、行くっ……あ」
——次は一週間後だ。
あの日のワイパーさんの言葉を思い出す。
今日がその、一週間後だった。
「ごめん。今日は用事があるんだった。」
「そう。じゃあ、また今度だね。」
「それって男?」
ニヤニヤと言いながらラキが
私とコニスの間に割って入ってくる。
「ち、違うよ!お母さんとだよ。」
「アハハ、冗談よ。」
仲が良い2人にも
まだワイパーさんとのことは言っていなかった。
ラキは同じシャンディア出身で
彼のこともよく知っていると思うけど
今日を最後にあの人とはもう会わなくなるから
特に言う必要はないと思ってる。
「約束があるなら、あとはやるから上がっていいよ。」
ラキにそう言われ、時計を見る。
あと30分ほどで、約束の5時になるところだった。
はぁ、と小さくため息を吐く。
店に迎えに来る、と言っていたけど
本当に来るんだろうか?
とりあえず、ラキの言葉に甘え
仕事を終え、店の外で待ってみることにした。
今日こそ言わなくちゃ。
話があるって。
結婚はやめにしたいって。
怒られるかもしれない。
あの怖い顔で、睨まれるかもしれない。
でも、このままズルズル続けるより
はっきりと言っておかなくては。
パンプキンカフェの外で、本当に
来るかわからないワイパーさんを待ちながら
心の中でそう決心した。
——と、
「あれ?キミ、ここの店員さんじゃん。」
前を通り過ぎる男の人と目が合ったかと思うと
その人は立ち止まって隣までやってきた。
「仕事終わり?ひとり?」
ニコニコと愛想よく話しかけてくる。
確かに何度か、お客さんとして
見覚えのある顔ではあった。
「暇なら一緒に飯でも行くか。腹減ってない?」
見覚えのあるお客さんだとしても
なんだか少し馴れ馴れしい態度。
「あの…人を待ってるので。」
「男?すっぽかされたんじゃないの?女を待たす男なんて放っとけよ。」
ヘラっと笑って、よく知りもしない相手に
バカにされたように言われ、少し腹が立った。
「違います。」
「おれと行こうよ。奢るし。」
軽々しく肩に手を置かれる。
やめてください、と言おうとした時だった。
「おれの連れに何か用か?」
フッと大きな影が現れたかと思うと
それはワイパーさんで
ギロリとあの鋭い視線で男を睨む。
「いえ、何でも…」と言いながら
男の人はそそくさといなくなった。
タイミング良く来てくれてほっと胸を撫で下ろす。
というか、本当に約束通り5時に来てくれた。
「待たせたみたいだな。」
「いえ、少し早く上がれたので。」
「そうか。」
「………」
「………」
まだお互いに慣れていない私たち。
気まずい空気が流れる。
言わなくちゃ。絶対に、今日。
この縁談はなしにしたいって。
「あの…ワイパーさん、私…話があって……」
「話?」
「えっと…その……」
まず何と言ったらいいのか。
非常に申し訳ないんですけど…?
もう会うことはできません…?
あなたに私はもったいないです、とか…?
言葉に詰まる私に痺れを切らしたように
ワイパーさんは歩き出した。
「……とりあえずメシ行くぞ。」
「え?あ、はい…」
仕方なく後を追う。
ちゃんと言うつもりだったのに
いざ本人を目の前にすると言えない。
結局こうして
ワイパーさんの勢いに流されてしまう。
そして今日も
ワイパーさんの少し後ろをついていく。
会話があるわけではないし、デートっぽくもない。
はぁ、とひとつため息を吐いて
ハッと口を手で覆った。
一緒にいる時にため息なんて、失礼だったかも。
ワイパーさんは気付いているのかいないのか
気にする様子もなくスタスタと歩き
ラブリー通りの中でも
一際大きなレストランの前で歩みを止めた。
「ここでいいか?」
「はい。」
初めて入る店だったけど、断る理由もないし
きっとこれが彼と最初で最後の食事だし
そう思って頷いた。