第一章 〜めぐり会い〜
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帰り道も、特に会話はない。
それでも、そうすることが当たり前かのように
ワイパーさんは私を家の前まで送ってくれた。
「……次は一週間後だ。お前の予定は?」
……この言い方は
また2人で出掛ける、という意味だろうか。
「あの…その日は仕事で…」
「何時に終わる。」
「夕方です。5時には。」
「店に迎えに行く。」
最後の一言を言い終わるや否や
向きを変えて帰って行った。
その背中を見送って、玄関先にひとりになると
はぁ、とひとつため息を吐く。
縁談も、次の約束も、断ることができなかった。
ほとんど勢い任せに喋るあの人に流されて
断る隙も与えてもらえなかった。
重い足取りで中に入ると、気がかりだったのか
心配そうな表情を浮かべた母が出迎えてくれる。
「大丈夫だった?縁談を断って、ワイパーさん怒ってなかった?」
「……それが、今日はタイミングがなくて言えなかったの……」
「あら、そうだったの。仕方ないわね。」
「しかも、来週また会いに来るみたい……」
「まぁ。」
それを聞いて母は少し驚いていた。
私だって、また会おうと言われるなんて
びっくりしてる。
「もしかしてあの人、あんたのことを……」
何やら妄想して緩む頬を抑える母。
「うそうそ。あり得ないよ。今日だって、全然そんな雰囲気じゃなかったし。」
「あらそう…どうしても、お断りするの?」
「うん。怖いけど…次会えた時に言うよ。」
ーーーーーーーー
夜。
色々あって疲れてるはずなのに、眠れそうにない。
いつもの自分のベッドの中だというのに
なんだか落ち着かなかった。
後頭部に手をやってみる。
あの時……
ビーチでワイパーさんに抱き寄せられた。
一瞬の出来事だったし
ロマンチックな男女の戯れとは違うけど
男の人をあんなに近くに感じたのは初めて。
力強く、でも乱暴ではない。
片腕で、私の体を軽々と抱き寄せた。
ワイパーさんに守られている、と
ものすごく、そう感じられた。
目の前に彼の体がすごく近くて
ふわりと煙草の香りがして
顔に吐息がかかりそうなほどで
その温もりが、身体に焼き付いている気がする。
天井に向かって手を開いてみる。
ワイパーさんの手はもっと大きくて
指が太く長くて、ゴツゴツしていてたくましい。
この両手で触ってしまったのが
なんだか今になって恥ずかしい。
顔はいつも不機嫌そうで怖くて
全身から放つオーラもなんだか怖くて
声も低くて怖くて
怖いから、はっきり言いたいことも言えない相手。
それなのに
こうして思い出してみて
胸がドキドキしてるのは、どうしてなんだろう。