君に触れる
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「寝室は…いつまで別々なんですか?」
「っ…そうだな……」
「夜くらいは…一緒にいたいです……」
言うのはとても恥ずかしかった。
でも、今ならワイパーさんに素直な気持ちを伝えられる気がして、真っ直ぐに目を見て伝えると、ワイパーさんはまた頭をぐしゃぐしゃと掻く。
「だから、焦らせんな。」
珍しく動揺している彼の姿に、笑みが溢れる。
「おれは一度はお前のことを諦めて、ひとりで生きていく覚悟だったんだ。勝手に離れたことを許されるとも思ってなかった。それが…こうしてお前と一緒になって、それだけでもう……つまりな、いっぱいいっぱいなんだ。くそ。」
なんだろう、この気持ち。
ワイパーさんは私より体も大きくて
たくましく、強い男の人なのに
守ってあげたいと思える。
とてもとても、愛おしい。
不安定なベッドの上に膝で立ち上がり
思わず目の前の大きな身体を抱き締めた。
情けない自分を見せてしまったことを
恥じらっている彼を、抱き締めずにいられない。
頬に手を添え、顔を寄せ
おでこにひとつキスを落とした。
驚いたワイパーさんが顔を上げて、視線が交わる。
熱い瞳から、目が逸らせない。
恥ずかしい。でもそれ以上に、愛おしい。
どちらからともなく、唇が重なる。
静かに触れるだけの、とても優しいキスだった。
「………私だって一緒にいるだけで緊張するし、ドキドキしてます。」
「………同じだな。」
「ワイパーさん、前に手を繋ぐところから練習してくれたじゃないですか。そうやって、また少しずつ進んでいきましょう。」
「……とりあえず一緒に寝てみるか。今夜。」
「えっ……」
「なんだ。自分の部屋に戻るか?」
「いえっ…寝ます。一緒に。」
部屋の明かりを消し、ベッド横の小さな
ランプダイアルだけが灯っている。
ワイパーさんは先に布団に入り
腕をこちらへ投げ出したので、そっと横に入り
その腕に恐る恐る頭を乗せて天井を見上げた。
ドキドキドキドキ…
心臓は壊れそうなほどうるさい。
「……こっち向け。」
彼の声がいつもより低く、近くで響く。
気持ちを落ち着けようとただ天井だけを
眺めていたのだけど、言われたとおりに
ワイパーさんの方に体ごと向ける。
距離が縮まり、目の前に大好きな人の顔。
「……眠れそうか?」
「……寝れるわけないです…」
「おれもだ。」
顔を見合わせて笑い合う。
と、ワイパーさんは腕枕をしている手を折り曲げて、私の髪に指を通した。
「だが……なんかいいな。」
その温もりが気持ちよくて、自然と目を閉じた。
触れている身体の暖かさ。
すぐそばに感じる息づかい。
緊張はだんだんと心地よさへと変わっていく。
眠気に誘われるままに意識を手放しそうに
なっていると、もう片方の腕が回されて
優しく抱き寄せられた。
私もワイパーさんの背中に手を回して
そのまま眠りについた。
きっと今夜は、この腕の中で幸せな夢を見る。
——ゆっくりしていってくださいね
あの瞬間から
欲しくて欲しくてたまらなかったもの。
こうして腕の中にそっと閉じ込めて
噛み締める幸福。
触れているだけで
気持ちがこんなにも穏やかになる。
”絶対に守り抜く”という強い気持ちが生まれる。
二度と、失いたくはない。
傷付けたくない。
自分の命よりも、大事に思えるものの存在は
何よりもおれを臆病にする。
そして、誰よりもおれを強くする。
…fin