最終章 〜あなたとなら〜
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「……来るか迷った。」
久しぶりに聞くワイパーさんの低い声が
身体中に響いて、やっぱり夢じゃないとわかった。
「来たらこうなっちまうことはわかってたんだが……来ちまった。」
苦しいくらいに背中を抱き締められて
その腕は少しだけ震えていた。
とても愛おしい気持ちになって
それを伝えたくて、私も大きな体に手を回した。
「私、とても怒ってます。勝手に距離を置かれたこと。」
「あァ、当然だ。すまなかった…」
「そばにいろって言ったのはワイパーさんです。」
「そうだな。」
「なのにワイパーさんから離れて行っちゃうなんて、ダメです。」
「あァ、おれがバカだった。」
「絶対、もうダメです。」
真っ直ぐにワイパーの目を見つめた。
こんなふうに面と向かってハッキリと
彼に意見したのは初めてのことかもしれない。
もう二度とあんな思いはしたくなかったから
必死だった。
ツーっと私の頬を伝った涙を
ワイパーさんが親指で拭う。
「ごめんな。」
そう言って唇に優しく触れられたキスからは
ワイパーさんの後悔と大きな愛が感じられた。
「ごめん……ごめんな……」
謝っては口付け、口付けては謝り
頬に、額に、まぶたに、たくさんのキスをくれて
昨日までのボロボロだった心の傷が
癒されていくのがわかった。
「聞いてほしい話がある。」
2人で神殿を登って上まで行き、腰を下ろして
あの日のように遺跡を見渡しながら
ワイパーさんが静かに話し始めたので
私は返事の代わりに隣に座った。
「おれは2年前、雷に打たれたことがあるんだが……カマキリに連れてかれた店で同じような衝撃にあった。」
「え……?」
「お前に会ったときだ。」
初めてワイパーさんがお店に来たとき。
私も覚えてる。
目つきが悪くて、なんだか怖いオーラの人。
そんな第一印象だった。
「雷に打たれたときと同じように体が動かなくて、お前から目が離せなかった。」
ワイパーさんは思い出すように
口角を上げて笑うと、私を見た。
「そん時からだ。おれはお前にベタ惚れだ。」
「え?」
私がワイパーさんを意識するずっと前から
ワイパーさんは私を……?
初めて聞く話に
恥ずかしさと嬉しさと戸惑いで顔が熱くなる。
気にする様子もなく、ワイパーさんは話を続けた。
「ガン・フォールから見せられた写真の中にお前を見つけて、こいつとなら、と思った。でもおれはお前を怖がらせるだけで、お前とどう接したらいいのかもわからねェ。」
「………」
「それでもお前は少しずつおれを受け入れてくれて、嬉しかったよ。」
伏見がちにそう言いながら、あぐらをかいたまま
体ごと私の方へと向き直った。
「ミドリ。」
「……はい。」
私も同じように、ワイパーさんの方へ体を向けて
正面と正面で、見つめ合う。
「お前は、おれに愛されたいと前に言ってたが……おれは最初からお前を愛していた。」
あんなに口下手で
自分のことを話すのが苦手なワイパーさんが
一生懸命気持ちを伝えてくれている。
「もちろん、今もだ。」
それが嬉しくて
「私も…ワイパーさんを愛してます。」
気付いたらまた、涙がいっぱいだった。
「ちゃんと言ってなかったな。」
この瞬間のワイパーさんの表情、しぐさ
全てをちゃんと見ていたくて
溢れる涙もそのままに見つめて
「おれと、結婚してくれ。ミドリ。」
差し出された手を、強く握った。