最終章 〜あなたとなら〜
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前に一度だけ連れて行ってもらった
シャンドラの遺跡。
その時に通った道筋を思い出しながら
険しい道をひとり進む。
ダイアル、聞いてくれただろうか。
もしかしたら聞かずに捨てられてしまったかも。
それなら、私は今
とても無意味なことをしていることになるけど
でも、もうそれでもよかった。
ダイアルに言いたいことを全て吹き込んだ
おかげなのか、昨日から胸はスッと軽くなった。
全て素直に頭の中に浮かんだ気持ちを吐き出した。
ラキには文句を言うように言われたけど
文句なんてひとつも出てこなかったな。
ここにワイパーさんが来なかったとしても
思いの丈を全て吐き出すことができて
最後に2人の思い出の場所に来ることもできた。
私はもう十分だ。
「やっぱりキレイ……」
神殿の階段を登って振り返ると
あの時に感動した景色が
あの時のまま、雄大に広がっていた。
「……お腹空いた。」
腰を下ろして、バッグの中から
小さめの菓子パンをひとつ取り出す。
「持ってきておいてよかった。」
我ながらなんて呑気なんだろう、と思ったけど
緊張して待っていても仕方ないし
どのくらい待つかもわからないし
そもそも来るかどうかもわからないし
だったらのんびり過ごしていようと思った。
菓子パンを一口かじったときだった。
——ザッ
足音が聞こえて、不意に下に目をやると
そこに
ワイパーさんが立っていた。
「…あ……」
するりと手からパンが落ちていて
気付けばコロコロと階段を落ちていく。
私はそれを追いかけるように足早に階段を降りた。
嘘。
本物?
私の夢じゃない?
都合のいい夢を見てるの?
まさか本当に、来てくれるなんて……
本当に、ワイパーさんが……
頭の中は混乱したまま
転がり続けるパンを追いかけると
それはワイパーさんの足元で止まった。
ワイパーさんがそれを拾い上げると
私は階段をあと3段ほど残して立ち止まる。
ずっとずっと会いたかった人が
会いたくて会いたくてたまらなかった人が
今、目の前に。
「あ、あの……」
ギロリと、と真っ直ぐに私を捉える鋭い視線も
そのままだった。
「あの、こ、こんなにすぐ来てもらえると思わなかったし、少しお腹空いちゃって……バッグに入ってたから、せっかくだし食べちゃおうかなって……」
自分でも何を言い訳してるのかわからないけど
ただワイパーさんの持つ食べかけのパンが
恥ずかしくて、それに手を伸ばす。
と、その手を強く引かれて
勢いで階段から落ちそうになる私を
ワイパーさんは大きな胸で受け止めた。
足元でもう一度、パンが転がった。