第七章 〜鬼と結婚するということ〜
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次の日。
朝、いつもの時間に起きて部屋を出ると
ワイパーさんの姿はなかった。
なんとなく、そんな気はしてた。
「はぁ……」
ため息が部屋の空気に消えた。
昨日の朝までは、とても幸せだったのに。
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「やっぱり、あんなことがあると元気出ない?」
仕事中、つい考え込んでしまっていて
見かねたラキが肩に手を置いた。
「あ、ごめん。ボーっとしちゃって。」
「ワイパーとは話せたの?」
ずっと一緒に戦ってきたラキなら
私よりワイパーさんの気持ちがわかるだろうか。
「昨日の女の人のご主人、神隊だったんだって。3年前のシャンディアとの戦いで命を落としたって……その戦いを仕掛けたのが……ワイパーさんだったとかで……」
「……そういうことか。」
「ごめん、ラキも当事者かもしれないのに……」
「いいって。気になってたし。ワイパーは何て?」
「何も。でも責任感じて、悔やんでるみたいだった。」
「そう。」
「どうしたら元気になってくれるかな?私じゃ、力にはなれないのかな?」
「放っときなって。」
「え?」
「ワイパー本人が乗り越えるしかないことでしょ。誰にもどうにもできない。」
「でも……」
確かに、ラキの言う通りかもしれない。
それでも、そばで見てるだけなんて……
「過去は変えられないんだよ。あたし達はずっと恨まれるようなことをして生きてきた。ワイパーはリーダーだったから余計にね。これからもこういうことが起こるかもしれない。その度に自分で乗り越えられないと、生きてなんていけない。」
「………」
「あんたも、あいつと夫婦になるって言うなら、同じ痛みを抱えていくことになるよ。」
私も…ワイパーさんと同じ痛みを……
「無理なら今のうちにやめときな。あんな男。」
「そんなっ!そんなのイヤ!」
「ハハハハッ!なら付き合うしかないじゃん。」
必死な私の顔を見て
ラキはなぜか嬉しそうに笑って
肩をポンポンと叩き、去って行った。
ワイパーさんが好き。大好き。
だから、彼が昔のことで縛られていて
辛い思いをしているなら
私も一緒に乗り越えていきたい。
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「お疲れ様でした〜!」
仕事を終えて、裏口からカフェを出る。
スッキリとした気分だった。
問題が解決したわけではないけど
ラキに話を聞いてもらえたことで心が決まった。
美味しいご飯を用意して
帰ってくるワイパーさんを笑顔で出迎える。
私にできることはそれくらいのことしかないけど
そうやって彼を支えていきたい。
私はワイパーさんの”妻”だから。
家に向かって足早に歩き出したときだった——
「んんっ——!!」
背後から誰かに手を回されて
鼻と口を覆うよう、乱暴に布が当てがわれる。
必死に抵抗するも、ツンときつい匂いが鼻をつき
瞬間、スッと意識が遠のいていくのがわかった。
「あの男が幸せになるなんて絶対許せない……」
どこか聞き覚えのある声が
最後に頭の後ろから聞こえた気がした。