第一章 〜めぐり会い〜
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睨まれているとも感じ取れる眼力に
居心地の悪さを感じながらも
気を悪くしてはいけない、と私は頭を下げた。
「ミドリです。」
真っ直ぐに顔は見られなかったけど
同じように名前だけを名乗った。
「あ、あの、この度は娘にこのような機会をいただいて、ありがとうございます。」
見かねた母がそう言うと
私の頭に手を置いて、一緒にもう一度頭を下げた。
「………」
「………」
無言の空気が流れる。
神様は呆れたようにため息を吐いて
ワイパーさんの背中をバシッと叩いた。
「ほれ、せっかくこうして来てくれたのだ。気の利いたことのひとつも言えんのか。」
「あァ?別におれは頼んでねェし、ジジィ共が勝手に——」
ゴッ——
神様の拳がワイパーさんの頭部を捉えて
鈍い音が響いた。
年をめされていても、とても痛そうな拳骨に
私と母は顔を引き攣らせる。
「……クソ…」
ワイパーさんは殴られた頭をボリボリと掻くと
ギロリ、ともう一度私を見る。
その怖い目つき、どうにかしてください。
この人、なんでこんなに睨んでくるの?
護衛隊って神様を護る人のことじゃないの?
なんでこんなに神様よりも偉そうなの?
こんな人とお見合いって……
うまくやっていけるわけがない。
……帰りたい。
と、スタスタとワイパーさんが歩みを進めた。
目の前までやってくると
私と視線を合わせるように腰を少し屈めて
これまでにないほどに近い、顔と顔。
近くで見ると余計に迫力があり
恐ろしいオーラを放っている。
「おれの子どもを産め。」
そして言われた言葉は思いもよらないものだった。
「………え?」
「おれが言いたいのは、それだけだ。」
私と母は呆気に取られ
ワイパーさんの後ろでは神様が頭を抱えている。
それを気にする様子もなく「もういいだろ」と
神様に吐き捨てるように言って
ワイパーさんは部屋を出て行ってしまった。
神様は彼の背中を見送ると
こちらに向かって頭を下げる。
「悪いの。礼儀がなっとらんヤツなのだ。あれでもこの国には欠かせない戦士。気を悪くせんでくれ。」
「そんな、頭を上げてください、神様。」
母は焦って顔の前で両手を振りながら
探りを入れるように神様にひとつ質問をした。
「ワイパーさんて、有名な方ですよね?確かシャンディア出身の……」
「そうだ。シャンディアの酋長から頼まれたのだが……」
神様は私に目配せをして優しく微笑む。
「あんな男だ。この縁談に関してはゆっくり考えてもらって構わないからの。」
その笑顔に安心した。
断ることは許されないんじゃないか、と
内心焦っていたから。
「まぁなんじゃ…とりあえず一度日を改めて2人で会ってみるといい。」
「ええ、そうですね。」
神様と母の社交辞令のようなやりとりを最後に
私たちは神の社を後にした。
ーーーーーーーー
家に帰ると一気に緊張が解かれ
全身の力が抜けたようにソファーに寝そべった。
「お母さん、私、あの人前に会ったことあった。一度カフェに来てくれたことがあるの。」
母は夕食の支度を始めようと
エプロンを身につける。
「へぇ〜、あんな人でもパンプキンカフェに行くのね。」
「そうだね……」
天井を見上げながら、今日の言葉を思い出す。
——おれの子どもを産め。
「……私が選ばれたわけじゃなくて、あの人にとっては、子どもができれば相手なんて誰でも良いんだね。」
そうだ。
ワイパーさんはこの縁談にも、私にも
何も興味なんてない。
子孫を残すために適当に嫁を選んだ。
それがたまたま私だっただけ。
「…はぁ……」
無意識にため息が漏れる。
「ごめんね、ミドリ。」
申し訳なさそうに、母が謝った。
「そういえばお母さん、ワイパーさんのこと知ってたの?」
「あの人は有名な人よ。シャンディアの中でも“戦鬼”と呼ばれた人。」
「センキ?」
「“戦いの鬼“ってことよ。2年前、エネルの神官をひとり倒して、エネル自身ともやりあったと聞くわ。」
「戦いの…鬼……」
「……神様のおっしゃった通り、無理しなくていいからね。」
目を閉じると鮮明に思い出す。
ギロリと鋭い視線に大きな体。
殺気立ったオーラ。
神様をものともしない態度。
まさに”鬼”。
私があの人の妻に……
絶対に無理!!
「やっぱりまだまだ結婚なんて考えられないし、神様もああ言ってくれたし、お断りさせてもらう。」
「そうね。お父さんにはお母さんから言っておくわ。」