第六章 〜くちづけを〜
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一夜明けて
疲れているはずなのに
昨夜は胸のドキドキがなかなか収まらず
すぐに寝付けなかった上に、早朝に目が覚めた。
朝ごはんは何にしようかと考えながら
コーヒーの入ったカップを手に
カーテンを開け、陽が差し始めた外を眺める。
——ガチャ
ドアが開く音に驚いて振り返ると
ワイパーさんが部屋から出てきた。
昨日の今日で気持ちを実感したばかりで
まさしくその相手が突然現れ、身体がこわばる。
「おっ、おはようございます。」
「…あァ……」
ワイパーさんの方はいつもと変わらない様子で
寝起きで乱れた髪をガシガシと掻きながら
大きくあくびをする。
「早いですね!もうお仕事ですか?すぐにごはん作りますね。」
カーテンを閉めようと手をかけると
それはワイパーさんの手によって止められた。
「今日は非番だ。」
言いながら私が閉めかけたカーテンを
もう一度全開にして窓を開け、外を眺めながら
手にしたタバコに火をつける。
「そうなんですか!私も今日は休みです。」
嬉しさから顔が緩み、笑顔を向けると
いつもの鋭い瞳と、パチッと目と目が合う。
小さな窓の前。
そばに立って、2人の間に緊張が走った気がした。
「……珍しいですね。2人とも休みなんて。」
その緊張を誤魔化すように
だんだんと明るくなってきた窓の外に目をやった。
「……昨日は悪かった。」
「えっ?」
「どうかしてた。格好悪ィし、変なこと言っちまった。」
改めて昨夜のことを思い出して顔が熱くなる。
それがバレないように、窓の外を向いたまま
素直に答えた。
「……私は嬉しかったです。」
「……そうか。」
ワイパーさんも同じように外を眺めて目を細めた。
「いい天気だな。」
「どこか行きますか?」
少し期待を込めてそう聞いてみた。
最近はずっとワイパーさんが忙しそうで
2人で出かけることが全くなかったから。
「……昼メシを外で食おう。弁当頼めるか?」
思いもよらない嬉しい提案にパッと顔を上げる。
「いいですね!どこに行きましょうか?」
「……お前を連れて行きたい場所がある。」
遠くを見るように目を細めて外を眺めたまま
静かにそう言った。
「わかりました。すぐお弁当作りますね。」
物思いにふけるような雰囲気に
私はそれ以上何も言わず、静かにその場を離れて
キッチンでお弁当作りに取り掛かった。