第六章 〜くちづけを〜
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大事なものを壊さないように。
そんなふうに私を抱くワイパーさんの腕の中は
大きな安心と優しさに溢れていた。
でも心臓はずっと
壊れそうなほどにドキドキしている。
目の前のこの人のことしか考えられない。
そんな尊い空間。
その腕の中で自分の気持ちに気が付いた。
ううん、きっとずっと前から気付いてた。
でも認めるのはどこか恥ずかしくて
その感情とちゃんと向き合っていなかった。
だけど、こうして抱き締められると
もう逃げられないほどに
大きくなった気持ちが溢れてくる。
”私はワイパーさんが好き”
自覚して、認めて、恥ずかしいのと同時に
とても嬉しくなった。
出会った頃は”怖い”としか思わなかったこの人に
こんな気持ちになれるなんて。
少しずつ、確実に距離が縮まっている。
——他の男に、触らせたくねェ。
ヤキモチとも取れる言葉がものすごく嬉しくて
ずっと頭の中に響いてる。
ワイパーさんもきっと、ヤキモチを妬く程度には
私のことを気に入ってくれてるのかも。
もしかしたら私と同じように……って
抱き締めてくれる腕の力が強くなればなるほど
期待してしまって止められない。
好きでもない相手をこんなふうに
優しく抱き締めたりするだろうか?
男の人のことはよくわからないけど
これが特別なことならいいな。
ワイパーさんも
私のことを好きになってくれたら……
ーーーーーーーー
「………」
「………」
誰もいない夜道を
手を繋いで、静かに歩いた。
言葉を交わすことはなかったけど
不思議と前のように気まずいと感じることは全くない。
繋がれたままの掌から、愛しさまでも感じた。
家に着いて明かりが灯ると
夢から現実に戻されたような感覚になる。
同時に今までの行動が急に恥ずかしくなって
繋いでいた手をどちらからともなくスッと離した。
「疲れたろ。風呂入ってさっさと寝ろ。」
顔を合わせることもなく
ワイパーさんはそそくさと自室へ向かう。
「あのっ、おやすみなさい。」
私がそれだけ言うと背を向けたまま右手を
軽く上げ、パタンとドアが閉められた。