第五章 〜彼の嫉妬〜
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「あれ?ワイパーさん!」
「……よう。」
一日の仕事を終え、カフェを出ると
目の前にワイパーさんがいた。
約束もしていないのに、今日は2度も会えた。
嬉しくなり、笑顔を向けながら駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「早く帰れることになった。お前もそろそろ帰る頃だと思ってな。」
「待っててくれたんですか!?」
驚いてつい顔を近付けると
ワイパーさんは鼻の頭を掻きながら視線を逸らす。
「今日はずっとこの辺りの見回りだったからな。」
「ありがとうございます。久しぶりに一緒に夜ご飯が食べられますね。」
「あァ……」
待っていてくれたことも嬉しいし
最近は朝しか会えていなかったから
こうして思いがけず2人になれたことも嬉しくて
ニヤける頬を抑えられないまま、隣を歩いた。
「随分機嫌がいいな。」
「あの…こうやって会えると思ってなかったので。」
「……そうかよ。」
「あと…昨日はありがとうございました。ベッドまで運んでもらっちゃって…すみません…」
「……覚えてるのか。かなり寝ぼけてたが。」
「覚えてます。手を繋いでくれたのも。嬉しかったので。」
「………」
ふわり、と右手が大きな温もりに包まれる。
「こんなもんでいいなら、いくらでもする。」
「………」
急に手を握られ、恥ずかしさから言葉が出ず
つい俯いてしまった。
顔も熱い。
「おい、恥ずかしがるな。まずはこれから慣れていくんだろ。」
「あ、そうですよね…」
——手を繋ぐところから少しずつ、慣れていってもいいですか
前に言ったことを覚えていてくれた。
恥ずかしいけど、嬉しくて
ぎゅっと熱い手のひらを握り返す。
手を繋ぐと2人の距離はグッと近くなり
肩は触れそうなほどで
ワイパーさんがより大きく感じる。
いつものように上の服を着ない彼の
鍛えられた身体がすぐ横にあって直視できない。
ドクドクとうるさい心臓の音
もしかして聞こえてしまっているかも。
……これに慣れることなんて、できるだろうか…
ワイパーさんは前を向いたまま
フゥーっと煙を吐いた。
お互いの仕事の話をしながら家路を歩いた。
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「あァ〜、食った。」
久しぶりに2人での夕食を終えて
ワイパーさんはソファーに背を預けるように座り
満足そうにお腹をさすった。
「でも最近では珍しいですね。こんな時間に仕事が終わってるの。」
私はその前のローテーブルにお茶を置き
自分のカップを手に、横の床に座った。
本当に、こんなふうに2人で家で
ゆっくりするのは何日ぶりだろうか。
「あァ。明日からまた遅くなるだろ。」
「あ!私明日、食事会があるんです。カフェの1周年を皆でお祝いするんですって。行ってもいいですか?遅くなると思うんですけど。」
「どうせおれも遅いし、好きにしろ。」
テーブルのお茶に手を伸ばしたところで
ワイパーさんの動きが止まる。
「そこには……」
「はい?」
「……あの料理長も来るのか。」
「料理長のこと知ってるんですか?もちろん来ますよ。」
「……そうか。」
どうしてそんなことを聞いたのか気になったけど
ワイパーさんは特にそれ以上何も言わず
ズズ…とお茶を啜っていたので
大きな意味はなかったんだろう、と
私も気にせずにお茶を飲んだ。