第四章 〜ありがとう〜
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4日ぶりだった。
ワイパーさん、と、私の家。
ワイパーさんがドアを開けてくれて
中に入り、少し驚いた。
キッチン台、ダイニングテーブルやソファーの上。
ありとあらゆる箇所に物が乱雑に置かれている。
すかさずワイパーさんが「やべ…」と呟きながら
頭をガシガシと掻いて片付けを始めた。
「……得意じゃねェんだ。片付けとか、掃除とか。やる気おきなくてよ。ひとりだとどうしても適当になっちまう。」
何やら言い訳のような言葉を並べながら
物を集めて自室に放り込むだけの片付けをする
そんなワイパーさんがなんだかおかしくて
堪えきれず、私は思わず笑い出す。
「…ふっ、ふふっ、あはははは!」
ワイパーさんの動きが止まり
ギロリといつもの鋭い視線を向けられ
ハッとして口を手で塞いだ。
「ごめんなさいっ、笑ったりして…」
気を悪くさせてしまったかも、と咄嗟に謝ると
ワイパーさんは私の手首を掴んで口元から離す。
私は緩んだ口元をきゅっと結んだ。
「怒ってねェよ。笑いたかったら笑え。」
「え…?」
「いいから……笑ってくれ。」
鋭かったはずの視線は、近くで見ると
なんだか熱を帯びていて、優しさすら感じる。
それが気恥ずかしくて視線を逸らした。
「そう言われると…笑うの難しいです。」
「あァ、そうか。そうだよな。」
ワイパーさんもスッと手を離して
再び片付けを始めた。
そばにいるのが少し恥ずかしくて
私はキッチンでシンクに溜まっていた食器を
洗うことにした。
「ワイパーさん、コーヒー入りました。」
「あァ、ありがとうな。」
あらかた片付き、元の部屋に戻ったところで
向かい合ってテーブルに着き、一息つくと
私は改めて、ワイパーさんに頭を下げた。
「勝手に家を出たこと、本当にごめんなさい。」
「いや、悪かったのはおれの方だ。」
ワイパーさんは咥えていたタバコを
灰皿に押し付けると、手を膝について
背筋を伸ばし、姿勢よく私に向き直る。
「何か不満があるなら何でも言え。言ってくれねェと、おれは馬鹿だからわからねェし、またお前を不安にさせる。」
嬉しかった。
ワイパーさんが、ちゃんと私の方を向いて
私の気持ちを聞こうとしてくれてる。
その姿勢を見られただけで
今度はうまくやっていける気がした。
「私…もっと、話がしたいです。」
「話……」
「ただ子どもを作るためだけの関係なんて、私は嫌です。ワイパーさんのこと、もっと知りたいです。」
「おれのこと?」
「どんなことでもいい。好きな食べ物とか、今日は仕事でこんなことがあった、とか、お昼に何を食べた、とか、くだらない話でも何でもいいんです。」
「…あァ、わかった。」
「あと……」
これは言ってもいいのだろうか…と口籠る。
「何だ?気を使うな。ちゃんと言え。」
眉間に皺を寄せ
睨みを効かせたいつもの顔で詰め寄られ
私は恐る恐るその顔を指さした。
「顔が、その…怖いんです。視線が鋭くて、睨まれてるみたいで……」
「……できるだけ直す。」
「あ、でもそれは、少しだけ大丈夫になってきました。」
ワイパーさんの目を見つめる。
確かに視線は鋭いけど、それはきっと
ワイパーさんの芯の強さの表れであって
「怒ってるわけではないって、わかったので。」
そう思うと、自然と顔が綻んだ。
と、スッとワイパーさんの手が伸びてきて
頬に添えられ、一気に身体がこわばる。