第一章 〜めぐり会い〜
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「いや!結婚なんて!!絶対やだ!!」
真っ白な島雲が赤く染まり始める夕暮れ時。
空島・スカイピアのとある一軒家に
娘の叫びにも似た大声が響いた。
「嫌だって言ってもな…もう送っちゃったんだよ。」
「信じられない!男の人と付き合ったこともないのに、結婚なんて考えられるわけないじゃない!!」
「まぁまだ決まったわけじゃないのよ。あなたの写真が相手の方に見初められたら、連絡があるから。」
「もぉ〜……」
ふくれっ面で恨めしそうに両親を見るこの娘
名前はミドリ。
神隊に友人がいる父親が
神の護衛隊員が見合い相手を探している
という話を聞き付け、ぜひうちの娘を、と
20歳を迎えた記念に撮ってあった写真を
勝手に送ってしまったことから
娘の反感を買ってしまった。
神の護衛隊の妻なんて
希望してもそうそうなれるものではない。
母親の方は、もしも…万が一でも
自分の娘を気に入ってもらえたら…と
口にはせずとも内心は期待せずには
いられないでいた。
当事者のミドリは20歳を超えたばかりで
パンプキンカフェの店員という仕事も見つかり
友人と遊び歩いたり、恋をしたり
これからの人生を自由に謳歌しようと
意気込んでいた矢先だった。
結婚なんて冗談じゃない。
まだまだ私は遊びたい年頃なんだから。
いくら相手がこの国の誰もが憧れる
神の護衛隊の人だとしてもお断り。
どうか選ばれないことを祈るしかない。
頭に血が昇っていたけど
ひとりになって、冷静に考えてみる。
まず、そんなすごい人が
こんな平凡な私を選ぶだろうか。
私が男性側の立場だったら
こんな何の特徴もない町娘よりも
綺麗で気品があって、由緒ある家柄の
育ちの良い女性を選ぶに決まってる。
このスカイピアには年頃の娘が五万といるし
たくさんの女性が写真を送っていることだろう。
落ち着いて考えてみると
私が選ばれるわけがないという結論に辿り着き
余計な心配をすることをやめた。
ーーーーーーーー
その数日後だった。
——コンコン
玄関のドアが叩かれ
夕食の支度でキッチンに立っていた母が
はいはい、と返事をしながらパタパタと
玄関へ向かった。
何やら話し声が聞こえ、訪問者は帰ったようで
戻ってくる母の足音は
バタバタと慌ただしいものに変わっていた。
「大変大変!!選ばれた!選ばれたわよ!」
母の騒ぎように、読書をしていた父も
何事だ?と本を閉じてやってくる。
選ばれた…って、まさか……
嫌な予感がする。
母の手には1枚の紙が握られていた。
「ミドリ!お見合い相手に選ばれたのよ!!神の護衛隊の方の!!」
今の来客は神の社から来た使いの人で
届けられたのは正式な顔合わせの通知。
私たちは何度も書面を見直して
それが勘違いでも夢でもないことを確認する。
同時に、頭の中には疑問も浮かんだ。
どうして、私なんかが……
どうして、うちの娘が……
「……嫌。私、嫌だよ。断ってよ、お父さん。」
「なっ…せっかく選ばれたのにか!?」
「選ばれたくなかった!」
頬を膨らませて父を見ると
父は私の目の前で両手を合わせて頭を下げる。
「頼む。一度会うだけでもいい。お父さんの顔を立てると思って。」
「………」
「もしかしたら、会ってみたらすごく素敵な人かもしれないじゃない。それに選ばれたのはうちだけじゃないかもしれない。ほら、よくあるオーディションみたいに、少しずつ人数を絞ってるのよ。たくさん呼ばれているうちのひとりと思えば気が楽でしょ?」
「でも……」
母に促され、自分に頭を下げ続ける父に免じて
仕方なく頷く。
「……はぁ…わかった。この顔合わせに行くだけだよ?」
「ありがとう!ありがとうな、ミドリ。」
「新しい服を買わなくちゃね!」
「いつもの服でいいよ…」
諦めたようにため息を吐く。
大勢の人の中に選ばれただけとはいえ
会いに行けば、私より綺麗な人ばかりで
みじめになって帰ってくる結果になることは
目に見えている。
人の気も知らないではしゃぐ両親を恨めしく見る。
あぁ、憂鬱。