第三章 〜結婚できません〜
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「いい加減やめてくれない?その暗い顔!」
カフェの厨房で仕込みをしていると
ラキがずいっと目の前に顔を出した。
「え?」
「ここ何日か、ずっと暗いのよ、あんた。自分で気付いてる?」
「そうだった?ごめん…」
ワイパーさんの家を出て、実家に帰ってから
3日が過ぎていた。
「ワイパーも最近元気がないって、カマキリが言ってたよ。」
「ワイパーさんも?」
「いいから話しなさいよ。喧嘩?」
「喧嘩っていうか…」
私はラキに理由を話した。
ラキに嫉妬している、という
恥ずかしい部分は省いて。
「実家に戻ってる!?」
「情けないけど…うまくやっていけそうになくて……」
「そんなのまだ暮らし始めたばかりなんだから、諦めるの早いんじゃない?言ったでしょ?お試し期間だと思いなって。」
「そうだけど…私とは話も弾まないし、笑ってもくれないし……私はただの子どもを作るための道具なんだよ。」
「なにそれ。ワイパーがあんたにそう言ったの?」
「初めて会ったときに、『おれの子どもを産め』って。」
あのバカっ、とラキは呟いて
呆れたようにため息を吐いた。
「この間さ、4人で食事した後、カマキリからワイパーの話聞いたのよ。」
「ワイパーさんの?」
「あいつ、カマキリにはあんたのこと色々話してるみたいだよ。」
「えっ…何言われてんだろ……」
ドキッとした。
話がつまらないとか、料理がまずいとか?
あの子作り未遂事件のこととか
言われてたらどうしよう……
「ワイパーさ、あいつ…あんたのこと……いや、やっぱやめる。あたしから言うべきじゃないわ。ごめん、忘れて。」
「えっ!何それ気になるじゃんっ!」
そこまで言いかけておいて
結局話してくれないラキに頬を膨らませると
片手で頬を掴まれ、ぷっと虚しく空気が漏れる。
「とにかく、ちゃんと話をしなさい!面と向かって2人で、言いたいこと言い合うの。それでもダメならあとは好きにしたらいい。このままじゃ後悔するよ?」
「……はい。」
お母さんのよう、いやそれ以上に厳しく叱られ
私は仕方なく頷いた。
でもラキの言う通り。
やっぱり一度、きちんと話すべきなんだろうな。
はぁ…とため息を吐いたところで
「キャー!!」
突然、客席の方から大声が響いた。
ラキと顔を見合わせ
他の店員たちと一緒に客席へ向かうと
女のお客さんが大きな男の人に捉えられている。
「てめェら全員、動くんじゃねェ。この女の首が飛ぶぞ。」
その男の人の手には物騒なものが構えられ
その場の空気は凍りついていた。
「……青海の…海賊だね。」
「カイゾク……?」
ラキが私にだけ聞こえるような小さな声で呟き
何か武器になるようなものを探している。
「おい女、余計なことをするな。」
「うっ…」
「ラキ!!」
気配に気付いたのか、仲間と見られる男が
後ろからラキを羽交締めにする。
「次動いた奴は容赦なく殺す。大人しくしてろ!!」
気がつけば
私たちは青海人の仲間たちに囲まれていて
抵抗できないまま、ひとりずつ座らされ
縄で縛られていった。
さすがのラキもこの状況では何もできず
悔しそうな顔を浮かべている。
どうなるのかわからない初めての恐怖に
私の体は震えていた。