第三章 〜結婚できません〜
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「暇だからカマキリとご飯でも行こうと誘いに行ったらちょうどワイパーもいてさ。せっかくだからミドリもって、誘いに来たのよ。」
レストランへ向かいながら
ラキが嬉しそうにこの状況を説明してくれた。
「昨日もご飯したじゃん。」
「いいでしょ、別に。」
「うん……」
私たちの少し前をカマキリさんと並んで歩く
ワイパーさんに目をやる。
前を向いているので表情は見えないけど
カマキリさんの話に相槌を打っている。
視線を下ろすと
歩きに合わせて揺れる手が目に入った。
昨夜、私の頬に優しく触れた手だ。
顔が熱くなる。
同時に昨日の自分の恥ずかしい行動を思い出して
逃げ出したくなった。
カマキリさんとラキが行きつけだという
料理店までやってきた。
カマキリさんの隣にワイパーさんが座ったので
私はラキと隣同士で座った。
「ミドリちゃんの隣じゃなくてよかったのか?」
「おちょくるな。うざってェ。」
2人のやりとりにラキが笑う。
私とラキはジュースを、2人はお酒を注文し
何品かの料理を注文した。
ワイパーさんと向かい合って座っているけど
目が合うことは一度もない。
カマキリさんとラキが一緒でよかった。
2人きりだったら気まずくて
どんなふうに接したらいいかわからないから。
「アハハハハ!」
「んなこといちいち覚えてなくていいだろ。」
「だってあの時のお前ったらよ——」
シャンディア時代の話をしてくれて
それほど昔ではないんだろうけど
懐かしんでいるのか、3人とも楽しそうだった。
そう、ワイパーさんも、笑顔が垣間見える。
「こいつ本当無茶する奴だったんだよ。ミドリちゃん。」
「お前だって同じだろ。」
「男どもは皆バカだったよ。」
「本当に昔から仲良しだったんですね。」
仲間はずれにされてるわけでも
ないがしろにされてるわけでもない。
当事者でない私も楽しいように
色々な話を聞かせてくれた。
ラキも、いつも通り。
ただなんとなく
少しだけ寂しい気持ちになったのは
私が見たこともないワイパーさんが
そこにいたからかもしれない。
カマキリさんの話に大きな口を開けて
笑うこともあったり
ラキのからかいに、怒ったように文句を言ったり。
私は彼にあんな表情はさせられない。
いつも無表情で、たいした会話もないのに
仲間の前では人が変わったように
表情豊かになる。
それだけ2人に心を許してる証拠だ。
きっと今のワイパーさんが本当の彼の姿。
私の前では
まだ自分を曝け出してくれていない。
夫婦になるのに。
それがとても、寂しかったんだ。