第二章 〜二人暮らし〜
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——ドンッドンッ
乱暴な玄関ドアの叩き方。
彼が迎えに来た。
家の中に緊張が走る。
玄関へ向かうと、父と母も後に続いた。
「ワイパーさん、へそ。」
「準備はできてるか?」
挨拶も特になく、いつも通りぶっきらぼうだ。
そして今日も、上の服は着ていない。
「あ、はい。もう出れます。」
用意していた荷物を持とうとすると
すっと手を伸ばしたワイパーさんが
これだけか、と言いながら
軽々と私の大きなかばんを持ち上げる。
そして、私の後ろにいた両親に目を向けた。
「こいつのことはおれが守る。」
突然のその一言に2人は驚いて言葉を失った。
もちろん、私も。
「不自由はさせねェし、おれが不甲斐なければ、すぐに連れ戻してくれて構わねェ。」
神様にもあんな口の聞き方をする人が
まさか自分の両親に気を利かせてくれるなんて。
「信用してくれ。」
鼓動が速くなる。
なんだか大切にされているような
すごく女の子扱いされているような
男の人にこんなふうにされるのは初めてのことで
顔まで熱くなってくる。
「さすが護衛隊の方ね!言うことが男前だわ!」
「不束な娘だが、ミドリをよろしく頼む!」
歓喜の声をあげながら見送る両親と
玄関先で別れた。
大きな荷物を持ってくれるワイパーさんの
少し後ろを歩く。
大きな背中が、いつも以上に大きく感じられた。
胸はずっと、少しだけドキドキしている。
「あの…ああ言ってくれて、父と母も安心したと思います。」
「あの2人はずっとお前を守ってきたんだろ。嫁にもらうからには、あのくらい当然だ。」
「よ、嫁……」
「……気が早かったか。」
嫁……
そうか。
私はワイパーさんのお嫁さんになるんだ。
入籍の日取りとか
詳しいことは何も決めていないけど
結婚を前提とした”二人暮らし”。
後ろ姿をまじまじと見つめる。
私の旦那さん……
意識して、顔が熱くなった。
ーーーーーーーー
前に来たときには気にしていなかったけど
神の社のそばには
護衛隊や神隊、その家族が暮らすための
小さな町のような居住区があった。
ワイパーさんも今はシャンディアの集落を離れ
そこでひとり暮らしているらしい。
「ここだ。」
案内されたのは2階建ての建物の一室。
個室が2部屋に、居間と台所もあり
決して広くはないが2人にはちょうどいいほどの
大きさの部屋。
ひとり暮らしの経験がない私は
もちろん家以外の場所で暮らすのは初めてで
新鮮な気持ちと緊張もありながら
改めてワイパーさんに頭を下げた。
「えっと…今日からよろしくお願いします。」
「あァ。」
ワイパーさんは目も合わせずに短く返事をし
個室のドアを開け、そこに私の荷物を置いた。
「お前はここを使え。」
殺風景な部屋に、備え付けられているものなのか
用意してくれたのかはわからないけど
小さなテーブルとひとり用のベッドが置いてある。
ドアの開いている隣の個室にチラリと目をやると
テーブルとベッドがあるのは同じだけど
服や本が乱雑に散らばっていたり
トレーニングに使うような器具もあり
そちらは生活感が感じられた。
「ここはおれの部屋だ。」
パタンとワイパーさんがその部屋のドアを閉めた。
「あ、すみません。」
覗いたりして、失礼だったかも。
「私、荷解きしてきますね。」
部屋に入り、ふぅ、と息を吐くと
少し緊張がほぐれる。
もしかしたら同じ部屋で寝るのかも…と
内心焦っていたから
自分の部屋が用意されていることに安心した。
カーテンを開けると、窓から神の社が見えた。
ワイパーさんがいつもいる場所だ。
これからどんな毎日が始まるのか
ワイパーさんと仲良くなれるのか
本当に彼の“嫁“としてやっていけるのか
不安だらけだけど
彼のことは信じられそうな気がする。
不思議とそう思えた。