神、愛を知る。/エネル
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神様のお嫁さんに、とはどういうことなのか
いまいちよくわからないまま
神の社での生活が始まった。
私のカフェよりも広い部屋を与えられ
食事は毎回ゴッドと一緒にとり
踊り子たちの舞を見せられたり
服やアクセサリー類も数え切れないほど
与えられた。
私には勿体ないほどの、贅沢すぎる暮らし。
同時に、恐怖に支配されている暮らし。
それは今までとはまた別の恐怖。
ゴッドの力を恐れていたとはいえ
自分の家で暮らしていられた今までは
なんて気楽で幸せだったのだろうと思う。
「どうだ?ここでの暮らしは。」
ここへ連れてこられて3日が経った晩、
夕食の最中におもむろにゴッドが口を開いた。
「あ、はい…あの、まだちょっと慣れないです……」
「うまい食事に、広く煌びやかな部屋。全て世話してくれる使用人もいる。これ以上の暮らしはない。どうだ、嫁になる気になったか。」
自信満々の笑みでそう言われ
私の本音なんてもちろん言えるはずもない。
「えっと…急なお話ですし、心の準備がまだ……」
「うむ、それもそうか……」
ゴッドは口を尖らせ
納得のいかないような表情で食事を頬張った。
深夜——
自室の窓から空を見上げ、涙が溢れた。
高貴で広い部屋を与えられても
豪華な食事を出されても
どんなに可愛い服にもアクセサリーにも
心が満たされることはなかった。
あの人のお嫁さんになんて絶対に嫌。
どうして私がこんな目に……
お父さんとお母さんの思い出がある
あの町に帰りたい……
「ミドリ。」
ふいに後ろから名前を呼ばれ
驚いて振り返ると、ゴッドが立っていた。
「エ、エネル様っ……」
いつの間に、私の部屋に?
「泣いていたのか。」
「えっと……」
焦って涙を拭っていると、ゴッドは近付いてきて
目の前で立ち止まる。
こんな距離で真正面から見下ろされると
恐怖なのか、緊張なのかわからない胸の動悸が
うるさくなった。
「何を泣いていた。」
「いえ、なんでもないです。」
家が恋しい、なんてとても言えない。
鼻をすすって誤魔化す私と目線を合わせるように
ゴッドは体を大きく屈める。
そうして顔を近付けてきた彼の表情は
なんだか少し寂しそうでもあって
「どうしたらお前は喜ぶ。ここの何が不満だ。」
そう言ってそっと頬に添えられた掌は
意外なほどに暖かく、そして優しかった。
「何でもいい。望みを言え。叶えてやる。」
その言葉に驚いて、一瞬言葉を失う。
まさかゴッドが?
私の望みを叶えてくれる?
本心を言って怒らせないだろうか……
と、一瞬迷ったけれど、結局ゴッドには
嘘を言っても見抜かれそうな気がして
意を決して、本心を伝えた。
「家に…帰りたい…です……」
ギュッと目を閉じた。
今ここで殺されるかもしれないから。
でも、この生活が続くよりはいい。
もう、どうにでもなれ。
やけくそだった。
頬に添えられていた掌の感触がなくなり
恐る恐る目を開けると
そこにはやはり、少し寂しそうな彼の姿。
「……わかった。帰してやろう。」
そして発せられた言葉に、私は耳を疑った。
「え?いいんですか?」
「連れてきたのは私の嫁にするためだ。泣き顔が見たかったわけじゃない。」
くるりと向きを変えて部屋のドアを開ける。
「明日の朝、家に送らせよう。今日はもう休むといい。」
そう言って、パタンとドアが閉まった。