神、愛を知る。/エネル
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「来い、女。」
「あのっ、どちらへ?」
「喜べ。今日から我が社がお前の家だ。」
「は?え?え〜っと…どういうことでしょうか……」
私の腕を引き、ズカズカと歩く彼の後ろを
小走りで必死に付いていく。
抵抗をする余裕はない。
頭の中は依然パニックのまま。
逃げ出したいにも、掴まれた腕は離れそうになく
引っ張られて痛いし
とりあえず付いていくことしかできない私は
涙目で訴えるように、隣を歩く従者に
視線を送った。
「安心しろ。悪いようにはしない。」
従者から返ってきた言葉は
少しも安心できるようなものではない。
それでも、逆らうべきでない状況なのは
一目瞭然だったので
私は大人しくゴッド・エネルに連れられていく。
途中、ラブリー通りを通り過ぎれば
当然注目を浴びた。
中には、お店によく来てくれる
お客さんの顔もあったけど
誰一人として私を助けようとしてくれる者はなく
「もしかしたらこのまま死ぬのかもしれない」と
頭の中を絶望が支配していった。
ーーーーーーー
神の社に着く頃には、心も体も疲れ切っていた。
”やんごとない”という言葉がしっくりくる
大きな建物。
初めて目にするそれは
普段は決してお目にかかれないような
神が住むにふさわしい高貴なものなのだろうけど
堪能する間もなく奥の部屋へと通される。
側近の人たちだろうか。
女性の使用人たちがずらりと並び、私を出迎え
そこからはもう、彼女たちにされるがままだった。
あっという間に服を脱がされ、お風呂に入れられる。
他人に体を洗ってもらうなんて
人生で初めてのことで
恥ずかしい、くすぐったい、そんな言葉ばかりを
連発しているうちにあっという間に終わった。
見たこともないような綺麗なドレスを着せられる。
顔に化粧を施されて、案内された大広間には
大きなソファーに横たわるゴッドの姿があった。
「なかなか似合うじゃないか。」
「ほう。見違えましたな。」
満足気な笑みを浮かべるゴッド。
その隣にはあの従者がいて
私を見るなり驚いたように目を見開いた。
「来い。ちょうど食事の時間だ。」
ゴッドはソファーから立ち上がると
用意されていた食事の前に腰を下ろし
隣の席をぽんぽんと叩いた。
ゴクリ、と息を飲む。
逆らうことは許されない。
ここを生きて出る方法を必死で考えた。
ゴッドの機嫌を損ねないように
大人しく言われた通りに立ち振る舞い
タイミングを見計らって家に帰してもらうよう
お願いする。
ほとんどパニックな頭では
その作戦しか思いつかなかった。
促されるまま、静かに彼の隣に座る。
目の前には、これもまた見たことのないような
豪華な料理が並べられ
美味しそうないい香りが鼻を刺激した。
「好きなだけ食べるがいい。」
「あ、ありがとうございます。」
ムシャムシャとバナナを頬張るゴッドの横で
私は料理に手を出す気分ではなかった。
隣に座ると、改めて彼の存在感に萎縮する。
とにかく大きな体に、だらりと垂れた長い耳たぶ。
何も身につけていない上半身は
鍛えられているわりに色白で綺麗な肌をしている。
そしてなんと言っても
背中にある太鼓が目を引く。
私たちの背中には羽が生えているけど
ゴッドにはないんだなぁ…と
どうでもいいことを考えていた。
「名は何という。」
ふいに視線を合わせられて、私は少し慌て
正座を正し、改めてゴッドに向き直る。
「あ、えっと、ミドリです。」
「私のことはエネルと呼べ。」
「はい…エネル様。」
「食べないのか、ミドリ。」
「あの…お腹が減っていなくて……」
「そうか。うまいのに残念だ。」
つまらなそうな顔をして
ゴッドはまた一口食事を頬張った。
私は内心、呆気に取られていた。
召使いや奴隷のようにこき使わることを
覚悟していたけど
実際はこんなふうにもてなされている。
あの従者の「悪いようにはしない」という言葉は
あながち嘘ではなかったようだ。
そして隣に座って
名前を聞いたり、普通に話しかけてくる
ゴッドの姿もまた、意外だった。
この空気、質問をしても大丈夫そうだ。
そう思って、私は意を決して
気になっていたことを尋ねる。
「あの…エネル様。どうして私をここへ?」
「あァ、まだ言っていなかったな。私の嫁にどうかと思ったんだ。」
ゴッドの口から発せられた思いもよらない答えに
私は言葉を失う。
「………え?」
「私は自分の嫁を探しに島へ降りていた。そしてお前に決めたというわけだ。」
話しながらゴッドはバナナを頬張り続けていた。
「え、えっと…どうして私が?」
「さァな。何かを感じた。」
「何か?」
「私にもわからない。が、まァいいじゃないか。ここに住めるんだ。お前にとっても悪い話じゃないだろう。」
「………」
悪い話じゃない?
冗談じゃない!悪いことだらけだ。
誰が神様のお嫁さんになんか……
でも、そんなこと言えるはずもないし
逆らえば殺されるのは目に見えている。
ゴッドがここにいろ、と言うのなら
私はその通りにするしかないんだ。
もしかしたら本当に
ここから逃げ出すことは不可能かもしれない。
頭の中が真っ白になり
結局この日、私は食事に手を出せなかった。