あなたがくれたもの/アーロン
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アーロンはミドリを片腕で抱き上げると
甲板の方へと歩き出す。
船内で散り散りになっていたクルーたちも
それぞれ持ち場へ向かうところだった。
攻撃を受けているのか、船は激しく揺れていた。
「聞け、ミドリ。今この船を攻撃しているのは海軍だ。このままそいつらにお前を引き渡す。」
「え……ええ!?」
「明日着く島がどんな島かもわからねェ。この方が手っ取り早いだろ。」
「でも……」
「いいか、お前は人質だ。この船の奴隷だったと言え。それ以外、おれたちとの繋がりは何もない。わかったな。」
「そ、そんなっ……」
2人が甲板へ出ると、クルー達がすでに
軍艦を前に攻撃体制へと入っていた。
「アーロン、お前の出る幕じゃねェ。ミドリを連れて裏にいろ。」
「頼みがあるんだ、アニキ。あの船を沈めねェでくれ。」
「あ?お前、何を…」
「………」
「………なるほどな。わかった。」
タイガーはミドリを抱えるアーロンを見て
全てを察し、仲間達に攻撃をやめさせた。
「海軍!攻撃をやめろ!ここに人質がいる!!」
アーロンはミドリを抱えたまま
船首の先端に飛び移ると、軍艦に向かって叫んだ。
「アーロンさん……」
「大丈夫だ。大人しくしてろ。」
「何だ!?」
「誰か捕まってるぞ!!」
と、一度攻撃をやめた海軍がアーロンに注目した。
「少女だ!大佐!人間の女の子です!」
「クソ!なぜ魚人海賊団の船に人間が!」
「卑怯な魚人どもめ!」
「この女を返してほしけりゃ攻撃をやめろ!!これ以上同胞たちに手を出すんじゃねェ!!」
「わかった。言う通りにしよう。その娘をすぐにこちらへ返せ!!」
「今連れて行く!が、船が逃げてからだ!!」
——バシャン!!
叫ぶなり、アーロンはミドリを抱えて
海へと飛び込んだ。
「ゲホッ!ゲホッ!」
「ミドリ、しっかりしろ。」
「アーロン!大丈夫なんだな!?」
「タイのアニキ!迷惑をかけた。こいつを届けてくる。先に行っててくれ!すぐに追い付く!」
返事の代わりに手を挙げ、タイガーは指示を出し
魚人海賊団の船はその場を離れた。
「魚人たちが逃げます!追いますか!?」
「いや、ダメだ。まだ魚人が少女を捕らえている。あの子の命が優先だ。」
「……さよならですか?」
海の上。
軍艦に向かって泳ぐアーロンの首に
抱き着きながら
ミドリは静かに呟いた。
「あァ、そうだな。」
「さっきはごめんなさい。弱気なこと言って……私、立派な海兵になります。」
「好きにしろ。」
「……最後まで、ありがとうございました。」
「軍人になるんだろ。おれ達に感謝なんてするもんじゃねェ。」
「アーロンさん。」
ミドリは前を向いて泳ぎ続ける
アーロンの頬に手を添え、自分の方を向かせると
「大好きです。」
真っ直ぐに目を見つめて、そう言った。
「……やめろ。」
アーロンはすぐに顔を逸らし再び前を見る。
「だってもう…会えないかもしれないから。」
ミドリはもう一度アーロンの顔を引き寄せると
その頬にひとつ、キスをした。
「っ………」
アーロンは一瞬驚いた表情をしながらも
前を向いて泳ぎ続ける。
ミドリは名残惜しむように
その太い首に力一杯抱き着いた。
「アーロンさん……」
溢れた涙は全て海水に溶けていく。