あなたがくれたもの/アーロン
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「これ全部ですか?」
「おう。大変なんで誰もやりたがらねェんだ。」
食事の後、はっちゃんによって
ミドリが連れてこられたのは船の洗濯場。
そこには魚人たちの大きな衣服が散乱している。
「とにかくお前、この船に世話んなるならよ、このくらいやってくれよ。」
「わかりました!船の中の掃除もしておきますね!」
「あァ、助かる。」
「任せてください!」
ミドリは嬉しかった。
ただ船に乗せてもらうだけでなく
自分に仕事を与えてもらえたことで
ここにいて良いと言ってもらえた気がしたから。
今までに経験したことのない大量の洗濯の山。
それでも少しも苦ではなく、ただ洗って
干すだけの行為に楽しささえ感じていた。
掃除用具を片手に船内を歩き回れば
今まで接したことのない魚人海賊団の
クルーたちとの接触もあった。
「うお!人間!」
「お前か、アーロンの野郎が連れてきたってのは。」
「あ、はい。お世話になってます。」
「なんだ、掃除してんのか。」
「助かるぜ。存分に働け。」
人間嫌いなクルーも多いと聞いていたけど
こちらが敵対心を向けなければ
彼らに害はなかった。
むしろ突然やってきた人間の小娘を
文句も言わず同じ船に置いてくれるなんて
なんて気のいい人たちだろう、とさえ思う。
もともと魚人に対して偏見のなかったミドリだったが
この船に来て、彼らに好意を抱くようになった。
「ここにいたか。」
床を磨くのに夢中になっていると
後ろから声をかけられる。
「あ、アーロンさん。」
「お頭と同胞達と、お前を今後をどうするか決めてきた。」
「私のことを?」
「次、人間のいる島に着いたらそこで船を降りろ。それまではここに置いてやる。与えられた仕事とメシの時間以外はあの倉庫にいろ。わかったな。」
「はいっ、わかりました!あの、ありがとうございます!」
「いちいち礼を言うな。」
それだけ告げるとアーロンは去っていき
ミドリはその背中に向かって深く頭を下げた。
次、人間のいる島に着いたら
私はこの船を降りる。
ここの皆とも、アーロンさんとも、お別れなんだ。
それがいつになるのかはわからない。
数ヶ月後かもしれないし、明日かもしれない。
まだこの船に乗せてもらったばかりだけど
お別れはとても寂しい。
家に居場所なんてなかったミドリにとって
この船には今までに感じたことのない
居心地の良さを感じていた。
もっと話をしたい。
もっと一緒にいたい。
アーロンさんと。
助け出されたときからか。
あるいは出会ったときからか。
いつしか心の中でその存在は大きなものとなって
いざ別れが近付いていると知れば
少しでもあなたとの時間を…と求めてしまう。
「一度はさよならをした人なのに……」
ミドリは寂しげに、小さくなっていく背中を
いつまでも見つめていた。