あなたがくれたもの/アーロン
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「船に人間がいることを嫌がるヤツもいる。お前の居場所はここだ。」
船内の一番端。
しばらく誰も使用していないような
小さな倉庫のドアを開け
アーロンはミドリを中に通した。
窓もなく、埃まみれの室内には
空になった酒樽やボロボロになったロープ、
薄汚れた布などが無造作に散らかっていて
いかにも不要になったものの置き場所だった。
お世辞にも綺麗に片付いているとは言えず
もちろん、人が暮らすような場所ではない。
それでもミドリは一歩部屋に入るなり
振り返り、嬉しそうな笑顔をアーロンに向け
深く頭を下げた。
「アーロンさん、本当にありがとうございます。私のためにあんな大金をはたいてもらった上、こうして島を出られるようにしてくれて。」
改めて恩人への感謝の気持ちが溢れ
ミドリの瞳は潤んでいた。
「感謝しても、したりません。」
「礼なんていらねェ。気まぐれだと言っただろう。お前がおれ達の気に触ることをしたら、容赦なく船を追い出す。忘れるな。」
「はい。」
「この部屋を出るな。同胞達とは関わるな。わかったな。」
「はい、わかりました。」
よく知らない、しかも魚人の海賊船。
そしてこの倉庫。決して良い待遇ではない。
それでも、今まで耐え忍んできた生活に比べたら
ミドリにとっては少しも苦ではなかった。
空の酒樽を並べ、その上に板を乗せると
ベッドのようなものが出来上がった。
そこに布を敷いて横になってみる。
硬い。けど意外と眠れそうだ。
静かな波の揺れに身を任せ、目を閉じれば
ミドリはすぐに寝息を立て始めた。
——翌朝。
バタバタと魚人たちの大きな足音が
いくつも鳴り響き、目を覚ます。
「行くぞ!出航だ!!」
かすかに聞こえた掛け声の後に
「ウォォォォ!!」と地響きのような大声が
船内に響いた。
それを合図に床の揺れ方が変わり
船が進み始めたことがわかった。
「出航したんだ……」
長年住み続けた島を、初めて出た瞬間だった。
ミドリは天井に向かって祈るように目を閉じる。
私はもう地獄から抜け出した。
これからは明るい未来が待っていますように。
夢を叶え、人の役に立つ人間になれますように。