第二章 〜現れた大海賊〜
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「ギャハハハハ!!」
「面白ェな、お前ら!!」
「いいぞ!海賊!!もっとやれェ!!」
小一時間もすれば
店内は海賊達が主役となっていた。
服を脱いで腹踊りをしている人もいれば
手拍子に合わせて歌ってる人もいる。
奥の大テーブルにいた海賊達は
数人を残し、他の席へ散り散りになって
それぞれのお客さんと共に盛り上がっていた。
こんなに賑やかな店内は、初めて見る光景だ。
誰も皆楽しそうで
その側にはあの赤髪の仲間たちの姿があった。
「皆さん、楽しそうですね。」
そう言うと、カウンターの向こうで
調理をする店長も嬉しそうに笑う。
「彼らのおかげだね。」
その視線の先には、奥のテーブルにいる赤髪。
仲間たちと何やら話しながら
楽しそうに大口を開けて笑っている。
「おかげで私たちは大忙しですけどね。」
「ミドリちゃん、何か拗ねてる?」
「いえ、なんだか…本当に信用して大丈夫なのかなって…」
「今のところ店を盛り上げてくれて、楽しく飲んでくれてるだけだし。海賊でも、彼らは大丈夫だとおれは思うけどね。はい、大テーブルの料理上がったよ。」
「…はーい。」
犯罪者である彼らが
一般人とこんなに短時間で溶け込めるなんて
にわかに信じられるものではなく
私の頭は少し混乱していた。
「ロブスターお待たせしました!」
「お、うまそうだな。」
料理を手に彼らの元へ向かうと
すぐ横の赤髪が、真っ先に手を伸ばし
なんとも嬉しそうにそれにかぶりついた。
海賊である彼らが
お客さんたちを楽しませてくれている
この状況は現実で
頬に食べカスを付け、ロブスターを頬張って
まるで隙だらけのその姿は
何かを企んでいるようにも見えない。
本当にこの男が
世界で恐れられている四皇のひとりなのだろうか。
私の頭はますます混乱した。
——善悪は自分の目で見極められるようになれ
チャンの言葉が頭を過ぎる。
人の善悪を見極めるなんて
私には難しすぎるのかも。
それに…
ふと視線を下げれば目に入るのは
赤髪のダランとした左肩のシャツの袖。
何度かこのテーブルを行き来して気が付いたが
彼には左腕がなかった。
それでも、それを隠すでもなく
不自由な様を見せつけるでもなく
先ほどから仲間達とお酒や料理を嗜んでいる。
私はといえば
気がつくと腕がない理由を考えていた。
生まれつきなのか
それとも戦いの中で失ったのか。
後者の方がいかにも海賊らしい。
もしそうだとすると
ニコニコしてはいるが、意外と血の気が多く
喧嘩っ早いのかも…
やっぱり油断してはいけない。
頭の中では彼の片腕のことを気にしながらも
それを悟られないよう、仕事に徹する。
「酒も料理もうまい。いい店だな。」
テーブルの空いた食器を下げるため重ねていると
ふいに赤髪に話しかけられ、ドキッとした。
「あ、ありがとうございます。よかったです、お口に合って。」
できる限りの笑顔を作ってそう答え
食器を下げながらそそくさとテーブルを後にする。
店長の言う通り、彼らは大丈夫かもしれない。
でも腹の奥底で
何か悪巧みを考えているのかもしれない。
信用はしないけど、敵ともみなさない。
答えの出ない問題に、私はそう結論を出して
今はしばらく様子を見ることにした。
赤髪たちと盛り上がった他のお客さんも
次々と料理やお酒を追加して
この日は、開店以来最高の金額を売り上げた。
「ありがとうございました〜!」
何事もなく無事に閉店時間を迎え
最後のお客さんを見送ったところで
店長が店員たちにまかない料理を出してくれた。
「今日は忙しかったろ。お疲れ様。」
「やった!ありがとうございます!」
「いただきまーす!」