第二章 〜現れた大海賊〜
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第二章 〜現れた大海賊〜
『チャン。お金はもういらないって言ったでしょ!
私、酒場でも働くことにしたの。
もうお金には困ってません。
だから、私へのお金は
チャンが自分のために使ってください。
こちらは春の陽気が続いていて
毎日ポカポカ気持ちがいいです。
チャンのいる場所はどうですか?』
お金を送ってくれることをやめないチャンへ
そう返事をした。
会いたい、と言ってしまった前回の手紙。
チャンの本心は、わからないまま。
もしこのまま彼に会うことができなくても
この手紙のやりとりだけは
いつまでも続けていきたいと願った。
養護施設での仕事後に夜中まで街の酒場で働く
少しハードではあるが
この生活にもだいぶ慣れてきた頃
施設の生徒が、突拍子もない話題を出してきた。
「先生!どうしてこの世界にはたくさんの海賊たちがいるの?」
「ん?海賊?」
「ねぇどうして〜?」
「そうね。今は大海賊時代といって、海賊王が20年も前に残した宝をめぐって、世界中の海賊たちが海を旅しているんだよ。」
「おれも海賊王の宝探す!」
「わたしも海賊になる!!」
「いけないわよ、海賊なんて。人のものを奪ったり、時には命まで奪ってしまうんだから。」
「え〜!!」
「カッコいいのに〜!!」
格好良くないわよ、と言いかけて
ふと昔もらった手紙のチャンの言葉を思い出した。
彼は海賊のことを”嫌いじゃない”と言っていた。
犯罪者で、悪いイメージしかない海賊のことを
どうしてそう言えるのか不思議に思ったけど
確かによく知りもしない相手を
完全に否定するのは違うのかもしれない。
まして純粋な子どもたちを前に
大人の意見を押し付けてはいけない気がした。
「……まぁ中にはカッコいい海賊もいるかもしれないね。」
「そうでしょ〜!」
「皆に優しくて、か弱い人を助けてくれるような海賊なら、先生も素敵だと思うな。でも、どうして急に海賊に興味を持ったの?」
「港に海賊船が来てるって、町の漁師さん達が言ってた。すんごく悪いヤツの船だって。」
「すごく悪いヤツ?有名な海賊ってことかな…」
この街に海賊が来ることは
そんなに珍しいことではなかった。
実際、働いている酒場でも
何度か海賊を見かけたことがある。
一口に海賊といっても、近寄るのも
躊躇してしまうほど恐ろしい見た目の人もいれば
町民に危害を加えることはなく
お酒だけを楽しそうに呑んでいる人達もいる。
ただ彼らの態度は皆、威圧的で
私たち一般人は彼らの逆鱗に触れないように
静かにやり過ごすほかないのだ。
だから、できることなら
海賊とは何も関わりを持ちたくない、というのが
町民達の本心だった。
「危険だから、港には絶対に近付いちゃダメよ?」
「は〜い!」
子ども達とそんな話をしたこの日の夜
私は酒場で再び海賊の噂を聞くことになる。
「はいおかわり、おまたせしました!」
「おう、ありがとうよ。なァミドリちゃん。」
よくお店に顔を出してくれる
常連のおじさんに呼び止められた。
「四皇って知ってるか?」
「ヨンコウ?」
「偉大なる航路の後半の海、新世界に皇帝のごとく君臨する4人の海賊のことだ。」
「それはまた、私たちには遠い世界の人たちね。」
「それがな、そうでもねェんだよ。」
「そうだ。今そこの港に来てるのが、その四皇のひとり”赤髪のシャンクス”の船だ。」
「えぇ!?」
昼間の子ども達との会話を思い出す。
まさか本当に大物の海賊が
この島にやってきているなんて…
”赤髪”って、私でも聞いたことのある通り名。
「でもどうして、わざわざ新世界からそんな大物がここまでやってくるの?」
「それがわからねェのさ。昼間は姿を現さないが、夜になるとここらの酒場を転々としてるらしい。」
「酒場を?」
「まァ今のところ店や町民に手は出してねェみたいだか、ミドリちゃんも帰り道気をつけるんだぞ。」
「私?」
「そうだ。海賊は平気で人の売り買いなんかをしやがるから。ましてや四皇ともなると、何されるかわかったもんじゃない。」
「もしかしたら、島ごと支配されちまうかもしれねェぞ。」
「島を!?丸ごと!?」
「例えばそのくらい力のあるヤツらだってことだ。」
おじさん達の話を聞いてただ恐怖だけを感じた。
偉大なる航路・前半のこんなへんぴな島へ
まさかそんな大物の海賊団がやってくるなんて。
そんな人達には絶対に会いたくない。
何事もなく、1日でも早く
その四皇がこの島からいなくなりますように。
そんな私の願いは
次の日にもろく崩れ去ることになる。