第一章 〜遠い空の下で〜
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——新世界のとある島。
バカ騒ぎするクルー達を背後に
岩場に腰を下ろして真っ暗な海を眺めながら
ポケットから出したそれを開いた。
——できるなら、あなたに会ってみたいです。
整った丁寧な文字で
最後の行にはそう書かれていた。
あいつは真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれたのに
正体を明かすことを躊躇ったおれは
情けなくも「いつかまた」なんて言葉で逃げた。
もう一度ポケットに手を入れ
取り出したのはエターナルポース。
紐を持って吊るせば、ゆらゆらと揺れる指針が
ある一定の方向を指して落ち着く。
「……おれだって会いてェさ。」
それを見つめて
息を吐くように、小さな声で本音が漏れた。
こんなセンチメンタルな気分になるのは
自分でも珍しい。
海賊団を結成してまだ間もない頃。
とある島で偶然出会ったひとりの少女。
歳は3つだったか。
突然に親を亡くし、その小さな身体には
重すぎるほどの現実を背負わされていた。
いつの間にかおれ達に懐き
素直で天真爛漫な少女に、おれ達も癒されていた。
人助け、なんて格好の良いものではなかったが
身寄りのないそいつを放っておくことができず
とっくにログは溜まっていたが
おれ達はミドリの親代わりになる
人間を探すため、島に残っていた。
幸い、ひと月ほどした頃に
隣町に住んでいたミドリの叔母に会い
無事に役目を果たした。
出航の朝。
別れの意味もわからないまま
ひとしきり大泣きしたミドリは
いつも大事に持っていた
小さなウサギのぬいぐるみをおれにくれた。
その手は震えていたが
決心がついたように、涙は止まっていた。
船に向かって、涙を堪えながら手を振る姿は
今も目に焼き付いている。
その時に、胸の中で約束を交わした。
おれがずっとおまえを守ってやる。
人ひとり育てるのに必要な金を
毎月ミドリの元へ送ることにした。
次にたどり着いた島には
遠く離れていても人の匂いを嗅ぎ分けられるという
特殊な能力のある鳩が日常を共にしている島で
おれはそこで一羽の鳩を買い
ミドリのぬいぐるみの匂いを覚えさせ
金を送ることができるようにした。
感謝なんて求めちゃいねェ。
ただの自己満足だった。
ミドリが立派な大人になり
このやりとりが必要なくなる頃には
おれは海賊として世界中に名を轟かせてやる。
そういう決意も込めていた。
「どうしたんだ?お頭。飲みすぎたか。」
感傷に浸っているところへ
煙草に火をつけながらベックがやってきた。
「少し酔い覚ましだ。」
「……何を考えてた。」
長年共に旅をしてきたこいつは
いつもおれの変化に敏感だ。
「……これだ。」
エターナルポースを見せると
その指針の先に目を配る。
「どこの島だ。」
「ミドリから送られてきた。」
「……会いに来いってことか。」
ベックは他人事のように鼻で笑う。
「まさか行く気じゃねェだろうな。」
「………」
少し焦りだすベックに
何かが吹っ切れたおれは笑みがこぼれる。
そうか。
何も悩むことなんかねェ。
行っちまえばいいんだ。
「あァ、行こう。暇だし。」
「やめとけ。世話になった相手が海賊だと知ったらあいつはどう思うか。」
「別に名乗り出たりしねェ。見に行くだけだ。」
「何を。」
「あんなチビだったミドリが、今じゃハタチだってよ。どんないい女になったか気にならねェか?」
「ならねェ。」
予想通りの返事を即答してくるベックを無視して
おれは手紙とエターナルポースを
ポケットにしまい、岩場から飛び降りる。
「明日の朝にしよう。船を出す。あいつらにそう言っとけ。」
そうと決まれば善は急げだ。
明日のため、今日はもう船に戻って寝るとしよう。
「……ったく、反対してもどうせ聞かねェんだろう。」
呆れたように煙を吐くベックを背に
おれは船に戻った。
待ってろ、ミドリ。
もうすぐ会える。