第五章 〜さよならの前に〜
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やらかしてしまった昨日は
シャンクスと顔を合わせるのが気まずくて
あのまま仕事を上がらせてもらった。
一日経った今日。
そう、店長からお願いされた
例の男の人とデートをする日がやってきた。
店長の計らいで今日は酒場の仕事は休みをもらい
養護学校での仕事を終えた夕方
一度家に帰り、出かける支度をはじめる。
あんなことをしてしまうほど
シャンクスへの気持ちが整理できていないのに
他の男性と会うなんて、気が重い。
でも今日はシャンクスのことは考えない!
でないと、これから会う彼に失礼だ。
そう心に決めて
軽く化粧をし、滅多に履かないスカートを履き
家を出た。
緊張から足早になったせいか
少し早く待ち合わせの場所の公園に着くと
ベンチに座っていた男性が
目が合うなりこちらに駆け寄ってくる。
「ミドリさんですね。今日はわざわざありがとう。エイダンです。」
「あ、こんにちは。よろしくお願いします。」
彼に合わせて軽く会釈をする。
前に一度私をお店で見かけたと言われていたけど
確かに見覚えのある顔だった。
「あの…近くに上手いレストランがあるんだけど、これからどうかな?」
「はい。お腹空いてたから嬉しいです。」
「よかった。」
緊張した面持ちを見せながらも
私の返答に安心したように微笑んだ。
公園を出て、隣を歩く。
よく知らない男の人とこうして並んで歩くのは
どうしたって緊張してしまう。
お客さんとして会った時は気にしてなかったけど
短い黒髪にスラリと背が高く
細身のスーツを着こなしていて
爽やかな雰囲気に好感を持てる。
癖のある伸びかけの髪もそのままに
無精髭も気にせず、いつもサンダルのあの人とは
正反対の印象だな、と思ってハッとした。
シャンクスのことは考えない!って
心に誓ったばかりではないか、と
頭をブンブンと振る。
「おいしい!」
「ミドリちゃんの口に合ってよかった。」
入ったことのなかったカジュアルレストラン。
高級店のように気取った感じはなく
程よく賑わいがあり、親しみやすい雰囲気の店内と
感じの良い店員さん。
きっと私が緊張しないようにと
選んでくれたんだろう。
エイダンは大人で、落ち着いていて
自分のことを話してくれたり
私の話を楽しそうに聞いてくれたり
非の打ち所がない理想の男性そのものだった。
こんな人と恋愛できたら、きっと楽しいだろう。
そう思うたびに、シャンクスの顔が頭をチラつく。
「店で会った時、いい子だなと思ったんだ。こんなふうに食事できて嬉しかったし、すごく楽しかった。また誘ってもいいかな?」
レストランを出る時、そう言ってくれる彼に
私は内心ズキンと心が痛みながらも
そっと頷いた。
「はい。私も楽しかったです。」
「ありがとう。送っていくよ。」
いきなり自分の気持ちを押し付けてくるでもなく
無理に連絡先を聞いてくることもなく
家まで送ってくれる彼に
ただただ素敵な男性だと思った。
でもどうしても
彼といてもシャンクスの顔がチラつく。
その度に、こんなに素敵な人を私は裏切っている。
そんな後ろめたさに襲われて
家に着く直前、私は立ち止まった。
「ミドリちゃん?どうかした?」
「……ごめんなさい、私……今日はとても楽しかったけど……」
もう、あなたとは会えません。
正直に、そう言おうとした瞬間だった。
「ミドリ。」
ガシっと腕を掴まれる。
「あ、あなたは…」
「っ!シャンクス!?」
腕を掴んだのは、紛れもなく彼だった。
「送ってくれてありがとう。だかこいつはダメだ。やめておけ。」
「え?」
突然現れたシャンクスに
私だけでなくエイダンも戸惑っている。
「ろくでもない女なんだよ。ほんと。」
「な!!」
「他を当たった方がいい。行くぞ。」
「わっ!!」
「ミドリちゃん!!」
家とは反対方向へ、グイグイと腕を引かれる。
心配そうな顔をするエイダンに手を振った。
「大丈夫!あの、ご馳走様でした!」