第五章 〜さよならの前に〜
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店長から頼まれた紹介相手とのデートを
翌日に控えた今日。
いつもと変わらず酒場は賑わっていた。
うちの店はいつの間にか
「赤髪海賊団が集まる店」と有名になり
彼ら目当てのお客さんも集まるようになっていた。
町の用心棒として噂が広まった彼らは
ファンもいるほど島中の人気者となっていて
意外なことに、女性客の数が格段に増えていた。
その上
シャンクスがこの店に居候なんてしてるから
彼目当てに通う人も少なからずいた。
「握手してください!」
「グランドラインを渡ってるんですよね!カッコいい!」
シャンクスのテーブルに女の子達が集まっている。
このように彼が女の子に囲まれる姿を
度々目にするようになり
私は自分でも驚くほど機嫌が悪くなっていた。
わかってる。完全に嫉妬だ。
私だって、シャンクスの格好良さは
もっともっと前から知ってたし。
船に乗ったことだってあるし
悪い海賊から助けてもらったりもしたんだから。
そんなふうに優越感に浸ろうと
必死になってしまう自分がとても嫌だ。
なぜ私は、自分は特別だと思っていたんだろう。
こういう状況になって、気付かされてしまった。
シャンクスからすれば
島の女の子のひとりという立場は
あの子たちと何ら変わりないんだと。
そんな子が誰とお見合いしようがデートしようが
シャンクスにとっては、確かにどうでもいい話だ。
気が付いて、自分の気持ちを思い知らされる。
やっぱり私は
シャンクスの特別になりたいんだ。
でもミドリ!
不毛な恋は終わりにすると決めたじゃないか!
頭の中で自分に喝を入れて
シャンクス達のことは気にしないよう
仕事に励んだ。
「船長さん、恋人もいないの?」
せっかく仕事に集中していたのに
不意にそんな声が聞こえてきてしまったから
どうしてもその会話に耳を傾けてしまう。
「もういい年でしょう?」
「まァ、そういうのは疎くてな。」
「私、立候補しようかしら。」
「私も!」
次々と手を挙げる女の子たちを前に
シャンクスも笑っていた。
その笑顔に私はさらにイラ立った。
美女にモテてるからって嬉しそうにしちゃって。
イラ立ちを抑えられず、よく考えないまま
怒りのままにそのテーブルへと足早に向かう。
「若い男の子もいいけど、船長さんかっこいいもの。」
「どうですか?この中なら誰が好み?」
楽しそうにそんな質問をする
彼女たちの会話を遮るように腕を伸ばし
シャンクスの右腕を掴む。
「この人はダメです!」
自分でも、どうしてそんなことを
口走ってしまったのかわからない。
怒りと焦りのようなものが頭の中で渦巻いて
とにかくこの状況が嫌で嫌で仕方なかった。
案の定、急に現れた女性店員の言動に
驚いた女の子達はポカンと口を開けて私を見て
腕を掴まれているシャンクス自身も
驚いた表情で私を見上げていた。
「えっと…あの……ろくでもない男なので!ほんと!」
居た堪れなくなった私はそう言い放ち
逃げるようにその場を離れた。
なんであんなことしちゃったんだろう。
きっと、変な女だと思われた。
あんなやりとり
聞かなかったことにするべきだった。
今更、恥ずかしさで顔が沸騰しそうなほど熱い。
「ひどい言われよう!」
「何なの?あの子!」
「船長さんの知り合い?」
「あんな子気にしないで。よかったら私たちと他の店行きません?」
そんな会話が後ろから聞こえてきたけど
そのまま厨房へ逃げ込んだ私には
「いや、おれはここがいいんだ。」
嬉しそうにそう言うシャンクスの言葉までは
聞こえなかった。