第四章 〜近くて遠い〜
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「いや〜楽しい夜だったな!」
「ほんとほんと!」
「お頭がミドリを助けたおかげで、おれたちまで美味いもの食わせてもらっちまったなァ!」
宴が終わり、店長とミドリを見送った後
クルー達は皆満足そうに腹をさすりながら
散り散りになる。
おれは甲板に残って
もうすっかり暗くなった海を眺めていた。
「上で何を話してた。」
隣にやってきたのは、やはりベックだ。
「ミドリもそのうち海へ出たいんだとよ。」
「ちょうどいい。名乗り出て連れ出すべきだ。」
「だからダメだ。名乗り出るのは。」
「ならチャンだとは隠したまま連れて行くか。」
「……そばにいたら、いずれバレちまう。大事な子だ。傷付けたくねェ。」
「大事な子、ねェ……」
ベックは何やら含み笑いを浮かべる。
おれの考えなんてお見通しのようで腹が立つ。
そうだ、大事な子だ。悪いか。
たったひと月の間だったが、親代わりだったんだ。
17年間、ずっと大事に想ってきた。
誰よりも。
そして、それだけじゃねェ。
いい大人が情けないことに
ここに来てから完全に気持ちが動いている。
少し顔を見にくるだけのつもりがこのザマだ。
自分でも笑えてくるくらい
特別な感情に振り回されている。
これ以上はやばい。
離れられなくなる。
ちゃんとそう、わかってはいるが
ここにいたいと思ってしまう。
ガシガシと頭を掻くおれを見て
ベックが楽しそうに笑った。
「さっさと正体を明かしてこい。正直が一番だ。」
「てめェ他人事だと思ってんな。」
「おれが選択を間違えたことがあるか。」
「うっ……」
「名乗り出るまで船には戻るな。」
「なんだと!ここはおれの船だぞ!」
おれの怒鳴り声など聞きもせず
ベックは船内へ消えていった。
本当に、最初は軽い気持ちだったんだ。
ただ成長したあいつを見られればよかった。
それが今じゃどうだ。
店に通うだけじゃ物足りず
家まで送り
名前で呼ばせ
髪を撫で
自分でも焦るくらい欲が出ている。
生まれちまったこの感情を
認めざるを得ない。
まさかこの歳で、あんな小娘に惚れ込むなんて
面倒なことになったもんだ。