第四章 〜近くて遠い〜
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そう決めたのはいいものの
いざ登りはじめると不安定な足場に
なかなか上に行かれない。
それを見ていたシャンクスは笑っていたけど
結局後から登ってきてくれて
私は時々彼に支えられながら
なんとか一番高い見張り台の上まで
来ることができた。
「キレイ……」
島とは反対側を向けば視界いっぱいに空と海。
西の水平線には
ちょうど夕陽が沈もうとしているところだった。
あまりの美しさに、言葉が出ない。
隣にいるシャンクスも
何も言わず、同じ方向を見ていた。
この景色の美しさに加え
彼がこんなに近くにいることに
心臓が壊れるんじゃないかと心配になるくらい
ドキドキとしていた。
「いいね、シャンクスは。いつでもこの景色を見られるのね。」
しばらく続いた沈黙が耐えられなくなり
そう言うと、シャンクスはフッと笑った。
「羨ましいなら仲間になるか?」
「私が?冗談でしょう?」
「なぜそう思う。」
「だって私なんて何の特技もないし、役にも立たないし、足手まといになるだけだから。」
「そんなこと気にするようなヤツはうちにはいねェけどな。」
見張り台の柵に片肘をついて
海を眺めながら、シャンクスはそう呟いた。
本気なのか冗談なのか
表情が見えずイマイチわからない。
「でも、世界を自分の目で見て回れるのは羨ましい。」
この世界のことは今まで読んできた本の中に
色々と書いてあったけど
本から得る知識と
実際に目の当たりにするのとでは全然違うと思う。
同じように世界を旅するチャンからの手紙には
嘘のような冒険の話が書かれていたこともあって
私も将来は同じような体験をしたいと
自然と考えるようになっていた。
彼もきっと、いつも船の上から
こんな景色を見ているんだろうな。
そう考えると、なんだかチャンに
少しだけ近づけたような気がして嬉しくなる。
「私もいつか、海へ出たいな。」
「あァ、出たらいい。」
夕陽に向かってポツリとつぶやくと
ポンポンと、いつものように頭を撫でられた。
その掌から伝わる優しさは
手紙から伝わってくるチャンの優しさに
どこか似ている気がした。
私にとってチャンは特別で
唯一無二のとても大切な人。
でもこの人、シャンクスは
違う意味で特別な人。
——もう大丈夫だ。
今、私のすぐ横にある右腕で
あの時はギュッと背中を抱いてくれた。
思い出して顔が熱くなる。
生まれてしまったこの気持ちは
チャンへのそれとは全然違う。
そして、相手は世界の誰もが知る大海賊。
大人数の敵を一瞬のうちに倒してしまう
得体の知れない強さを持っている人。
私が想像もできないような死戦を
何度も何度も越えて生きてきたんだろう。
助けてもらったとき
名前で呼べと言ってくれたとき
すごく近くに感じられたけど
私はシャンクスのことは知らないことばかりで
そもそも人間の格が違う。
今はこんなに近くにいるのに
この人は、私からは遠い世界のひと。
ドキドキの止まらない胸が、チクンと傷んだ。