第四章 〜近くて遠い〜
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「これだけあれば足りますかね。」
「どうだろうな。人数も多いし、よく食うヤツらだからな。足りなかったりしてな!はっはっは!」
数日前、シャンクスに海賊から助けられた。
そのことを店長に話し
お礼に食事をご馳走したいと相談したら
じゃあ船にご飯とお酒を差し入れに行こう
ということになり
店が休みの今日、台車にたくさんのお酒と
仕込んできた料理を積み、港へとやってきた。
「大きな船……」
堂々と佇む雄大なその姿に、思わず息を呑んだ。
この大きな船に乗って
広い海をどこまでも自由に進んでいくんだ。
私が暮らしてきたこの島なんて
きっと彼らにとっては
本当にちっぽけなものなのだろう。
「おれも海賊船てのは初めてだ。」
店長もあんぐりと口を開けて見上げていた。
と、話し声が聞こえたのか
甲板からひとり顔を出す。
「お、店長とミドリじゃねェか!」
「なんだなんだ。こんなとこまで何しに来やがった。」
「よォ!酒とメシを持ってきた!ミドリが船長さんに世話になったそうだな!!」
「なんだそうか!だったら上がってこい!」
「野郎ども!宴だ!!」
「頭呼んでこい!!」
降ろされた梯子を登ると甲板に出た。
停泊していても、波によって少しの揺れがあり
初めて船に乗った私は
床が揺れる感覚が新鮮だった。
宴と聞きつけた皆が次々と集まってきて
そこにはもちろん、シャンクスの姿もある。
「よォ、ミドリ。」
「こんにちは。この間はありがとうございました。何かお礼がしたくて。」
改めて顔を合わせると、少し緊張してしまう。
「あれはおれのせいだったし、礼なんていいんだが。まァ酒とメシはありがたくいただくよ。」
そう言いながら、私たちが持ってきたお酒を仲間たちと一緒に吟味し始める。
その嬉しそうな横顔に、来てよかったと思えた。
店長が作ってきた料理を並べ
船上で宴が始まった。
「ミドリから海賊の話を聞いた時は血の気が引いた。今じゃ娘のようだからな。この子を失ったら、おれは立ち直れねェ。ありがとうな、船長。」
「ヤツらの狙いはおれだったんだ。町で2人でいるところを見られてた。おれの方こそ、ミドリを危険な目に遭わせちまって悪かったな。」
「無事だったのは船長のおかげだ。」
私を挟んで店長とシャンクスがジョッキを上げ
グビグビと喉を鳴らしてそれを飲む。
周りでは赤髪海賊団の皆も
楽しそうにお酒を飲んだり食事を頬張ったり
それは思い描いていた
海賊たちの宴のイメージそのもので
船上だからこその雰囲気を私も心から楽しんだ。
「しかしまァ、まさかお頭に挑むとは。この海の奴らはまだまだ四皇の恐ろしさをわかってねェな。」
「もう顔も覚えてねェけどな。」
ひとりのクルーの発言に
大した興味もなさそうにシャンクスは笑った。
でも確かに。
あの海賊たちだけでなく私も
四皇と呼ばれるシャンクスの本当の強さは
少しもわかっていない。
あの時
私が目を閉じていたほんの一瞬で
20人以上もの人間が気絶していた。
ほとんどがシャンクス自身よりも背がありそうな
大男だった。
何をしたのかはさっぱりわからないけど
異次元の強さだということは私にもわかる。
私は勝手に友達になれたと思っていたけど
本当ならこうして横にいるのが不思議なほどだ。
隣を見ると
美味しそうに、店長の料理を頬張りながら
仲間と談笑している。
その横顔に、ドキドキと鼓動が速く
そして大きくなる。
あの時、はっきりと気付いてしまった。
遠い存在のこの人を
私は好きになってしまった。