第四章 〜近くて遠い〜
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この海賊たちが向かう港へ着けば
きっと赤髪海賊団の船もある。
そこで一か八か、大声で叫べば
誰かが気付いてくれるかも。
そう考えて、大人しくついてきた私は甘かった。
海賊たちが向かったのは港ではなく
普段は誰も近付かないような岩場の海岸だった。
どうやら島の正面の港にある
赤髪たちの船を避けて、ここに停泊したようだ。
これじゃ、彼らの助けはない。
助けて!チャン!
心の中でそう叫んだ。
瞬間、涙が溢れた。
彼が来られるわけないのは分かりきっているけど
船長さんたちを頼れないとわかった今
他にすがれるものが私にはなかった。
「怯えた泣き顔も可愛らしいじゃねェか。」
顔を覗き込まれ
視線から逃げるようにギュッと目を瞑る。
と、周りの海賊たちが
「ヤツだ!」「どこから現れた!?」と
口々に声を上げた。
ふと目を開けると
「その子を離せ。」
船長さんだった。
「船長さん……」
あの時のように、安心感に包まれる。
でも今はあの時とは状況が全く違って
船長さんがたったひとりなのに対し
敵は20人以上もの大男。
彼らは突然現れた船長さんに対し
すでに銃を向けたり、刀を抜いたりと
武器を手にして戦闘態勢に入っている。
さらに私は拳銃を持った男に捕らえられていて
足手まとい以外の何ものでもない。
「出たな、赤髪。てめェを殺せば名が上がる。」
「おれが狙いならいくらでも相手をする。ミドリには手を出すな。」
こんなに怖い顔の船長さんは初めて見る。
眉間に皺を寄せて、血管を浮き上がらせ
視線だけで人を殺せそうな目つきで
私を捉える男を睨みつけていた。
「大事な女を目の前で殺られたときの、てめェの顔を拝みたくてよ。」
顔に銃口を向けられ、私は思わず目を閉じた。
「っ……!!」
殺される。
本気でそう思った。
「四皇だか何だか知らねェが、自分の女人質に取られてりゃ何もできねェだろ!!」
「もう一度言う。ミドリを離せ。今離せば許してやる。」
「うるせェ!野郎ども、かかれ!!」
ウォォ!!という掛け声がしたかと思うと
それは一瞬で止み
バタバタと何かが地面に落ちる音がする。
恐る恐る目を開けると
周りの海賊達が全員、気を失って倒れていた。
そして、私の肩に回されていた男の腕の力が緩み
急に支えをなくした私の体は少しフラつく。
が、すぐに違う力に支えられた。
「もう大丈夫だ。」
それは、船長さんの右腕だった。
しっかりと私を抱えるように背中に回されている。
「怪我はないか?」
優しい瞳。
こんなに真っ直ぐに
この人の目を見たのは初めて。
安心したら、緊張していた体から急に力が抜け
私は思わず、その大きな体に抱き着いた。
「怖かったです……」
「悪かったな。狙いはおれだった。お前を巻き込んじまったな。」
小さい子どもをなだめるように
背中を優しく撫でられる。
すぐに身体の震えがおさまり
大きくて優しい温もりに全身を任せた。
「また助けられちゃいましたね。ありがとう、船長さん。」
「……シャンクスだ。」
「え?」
「名前で呼んでくれ。」
突然の申し出に驚きながらも
顔を見上げて、名前を呼んでみた。
「シャンクス?」
「おう。」
いつものあの屈託のない笑顔。
こうやっていつも、目尻に皺を寄せ、歯を見せて
嬉しそうに笑うんだ。
その笑顔を見た瞬間
自分が少しおかしくなったことに気付く。
ドクン、と心臓が跳ね
そのままドクドクと速く脈打つのを止められない。
だんだんと顔が熱くなってきて
思わずその笑顔から目を逸らした。
「帰ろう。送ってく。歩けるか?」
いつものように、ポンポンと私の髪を撫でる。
「あ、は、はい…」
歩き出したシャンクスの少し後ろをついていく。
その大きな後ろ姿をこっそりと見つめる。
どうしよう。どうしよう。
「おい。」
前を歩くシャンクスが急に振り返って
自分の横を指差しながら不満そうに私を見る。
「ちゃんと隣歩け。まだあいつらの仲間がいるかもしれない。」
「は、はい!」
「いい返事だな。」
言われた通り隣に行くと
シャンクスはまた嬉しそうに笑った。
胸が高鳴る。
どうしよう。どうしよう。
——助けに来てくれたら、格好良すぎて
恋に落ちてしまうかも。
あんなの冗談のつもりだったのに……